2020年4月29日水曜日

eKYCとOpenID Connectに関する最近のアクティビティ

こんにちは、富士榮です。

年明けから異常な忙しさでほぼ4か月ぶりの投稿になってしまいました。

今日はOpenID Foundationが今年から本格的に仕様化を進めているeKYC、ID保証に関する新しい仕様である「OpenID Connect for Identity Assurance」について紹介したいと思います。
ワーキンググループが始まったころは、ここまでリモートワークや非対面が重要になる、という局面を誰も予測していませんでしたが、ここに来てオンラインでのID保証、eKYCに関するニーズが本格化しているのは恐ろしい偶然としか言いようがありません。

尚、この「OpenID Connect for Identity Assurance」は、ちょうど1年程前から私もOpenIDファウンデーションジャパンのKYCワーキンググループをリードさせていただいている関係で共同議長を務めさせていただいている、米国OpenID FoundationのeKYC and Identity Assurance Working Groupで仕様策定が進められています。

ID保証(Identity Assurance)とは?

アイデンティティ管理に必ず付いて回るのが、デジタル・アイデンティティの精度や鮮度をはじめとする「信頼性」の課題です。

例えば、エンタープライズのシナリオでは、そのアカウントの持ち主はまだ在籍しているのか、権限付与に使っている役職は正確なのか?などといった「アイデンティティ・ライフサイクル」を管理するためにMicrosoft Identity ManagerやLDAP Managerなどの製品を使って効率的かつ正確なアイデンティティ管理を行います。

また、コンシューマのシナリオではいわゆる「KYC:Know Your Customer」といわれるID保証に関する課題を常に抱えています。これは例えば、サービスの利用を開始する際に登録する氏名や住所、年齢などの属性が本当に正しいのか?という「本人確認」や「身元確認」と言われる課題で、サービスの種類によっては利用者が一定の年齢を超えていることが法令で決められていたり、サービスの利用を許可するために必要な収入や本人到達性などの要件を満たす必要があったりするケースにおいては非常に重要なID保証のユースケースの一つです。例えば、金融機関におけるAML(Anti Money Laundering:マネーロンダリング防止)やオンラインゲーム等における年齢制限などがユースケースとして該当しますね。


ちなみにIDに関する保証レベルを綺麗に体系化しているのが「NIST(米国国立標準技術研究所)」が発行しているセキュリティに関するガイドラインシリーズ(SP/Special Publications)の800-63です。※通称NIST SP800-63
尚、NIST SP800-63は連邦政府内の情報保護の要件を規定している「NIST SP800-53」の中のデジタル・アイデンティティに関するガイドラインとして位置付けられていますが、連邦政府と取引をする民間企業を対象としてNIST SP800-53から抜き出す形で定義された「NIST SP800-171」にも同様に適用されることなどから、実質的にデジタル・アイデンティティの保証に関するデファクトスタンダードとなっています。

脱線を続けますが、NIST SP800-63では以下の3つの区分でID保証に関する規定をしています。

  • Identity Assurance Level(IAL):NIST SP800-63A
    • ID登録を行う時の本人確認・身元確認の強度(自己申告<非対面<対面など)
  • Authenticator Assurance Level(AAL):NIST SP800-63B
    • 認証器の強度(単要素<ソフトウェアベースの多要素<ハードウェアベース多要素など)
  • Federation Assurance Level(FAL):NIST SP800-63C
    • アサーション保護の強度(Bearer+署名<Bearer+署名+暗号化<HoK+署名+暗号化など)

各ガイドラインの日本語訳をOpenIDファウンデーション・ジャパンが公開しているので、興味のある方は参考にしてください。
https://openid-foundation-japan.github.io/800-63-3-final/index.ja.html


このように単にアイデンティティに関する「保証」といっても多岐にわたって考慮すべき点があります。


OpenIDファウンデーションジャパンにおける活動

冒頭で述べた通り、OpenIDファウンデーションジャパンにおいても先に述べた「KYC」に関するワーキンググループを2019年1月より設置し活動をしています。

このワーキンググループではOpenID Connectの仕様の拡張などといった単純に技術にフォーカスしたワーキングではなく、日本国内の各種業界(金融、テレコム、古物など)におけるID保証、本人確認に関する現状の調査、および現在業界毎に分断されている本人確認に関する要件の共通化に向けた課題の洗い出しなどポリシー面からの整理や、OpenID Connect for Identity Assuranceの仕様への国内事情のインプット、分散台帳を活用したアイデンティティの保証として注目されている「DID:Decentralized Identifier」や「VC:Verifiable Credentials」といった新しい技術の調査も、NFCリーダを使った公的証明書のICチップ読み取りや画像認識などeKYCに関連する技術に関しても網羅的に調査を行っています。

現在、ワーキンググループは第1シーズンの活動を終え、第2シーズンの活動を開始したところですので、興味のある方はこの機会にOpenIDファウンデーションジャパンへの入会とワーキンググループへの参画をご検討ください。

尚、第1シーズンの活動実績と成果物については2020年1月に開催された「OpenID Summit Tokyo」の中で発表させていただきましたので、詳しくは発表資料・成果物をご覧ください。



米OpenID Foundationにおける活動

ようやくOpenID Connectの仕様の話です。米OpenID Foundationでは2020年1月より「eKYC and Identity Assurance Working Group」という新しいワーキンググループを立ち上げ、ID保証に関するOpenID Connectの新しい仕様である「OpenID Connect for Identity Assurance(通称OIDC4IDA)」の策定を進めています。尚、先に述べた通り、OpenIDファウンデーションジャパンでKYCワーキンググループをリードさせていただいている縁もあり、こちらのワーキンググループでは議長であるDr. Torste Lodderstedtの元、Mark Haine, Anthony Nadalinと共に共同議長を務めさせていただいております。

どのような仕様か

Abstractに記載されているとおり、本仕様は「OpenID Providerがエンドユーザに関する検証済みの属性をRelying Partyに対して提供するためのOpenID Connectの拡張」であり、「特定の法律に基づき自然人のアイデンティティを検証するために利用されることを意図して」定義されています。
This specification defines an extension of OpenID Connect for providing Relying Parties with verified Claims about End-Users. This extension is intended to be used to verify the identity of a natural person in compliance with a certain law.

簡単に言うと、OpenID Providerに登録されているアイデンティティが何に基づき、どのように検証されたものか?というメタデータを含めてRelying Partyに対して提供することにより、アプリケーション側が安心してサービスを提供することが出来るようにすることを目指しています。

例えば、ial_exmample_goldというトラストフレームワークに則って確認済みのgiven_nameとfamily_name属性の値である、ということをRelying Partyに伝達する時、id_tokenやuserInfoエンドポイントから以下のような形でverified_claimsとしてJSONが返却されます。
{
   "verified_claims":{
      "verification":{
         "trust_framework":"ial_example_gold"
      },
      "claims":{
         "given_name":"Max",
         "family_name":"Meier"
      }
   }
}

細かい技術面での解説はAuthleteの川崎さんが解説してくれていますし、少し前のDraftですが仕様の日本語化もされていますので、そちらをご覧いただければと思います。



仕様の現状

現在、本仕様は2nd Implementer's draftのレビュー期間が終わり、仕様の承認に関する投票が開始されています。
https://openid.net/2020/04/27/notice-of-vote-for-second-implementers-draft-of-openid-connect-for-identity-assurance-specification/

こちらも興味があれば米国OpenID Foundationの会員(個人でもなれます)として加入していただき、仕様策定にコントリビュートしていただければと思います。
(意外と日本人もいますよ!)




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