2024年3月5日火曜日

Trusted Web推進協議会ユースケース報告会がありました

こんにちは、富士榮です。

先週の29日(木)と今週4日(月)の2日間にわたり内閣官房Trusted Web推進協議会のユースケース事業者による最終報告会がありました。

すでに終了していますが、録画や資料は公開されると思うので見逃した方は是非見てみてください。Verifiable Credentialsを含む検証可能なテクノロジやトラストに係るガバナンスのあり方など実際のユースケースに照らし合わせて、かつ実際のモノを作って実験をしているのでとても参考になります。

報告会URL

https://www.toppan.com/ja/joho/social/trusted_web2023_koubo.html#lastreport


以下、プログラムです(上記ページより)

プログラム概要

2月29日(木)
9:55~10:00開会挨拶事務局
10:00~11:00報告株式会社電通国際情報サービス(「KYC/KYBに基づいたトラストのある取引」を促進する新しい仕組み)
11:00~12:00報告Institution for a Global Society株式会社(国際間の教育拡充と労働市場の流動性を高める信頼ネットワーク構築~お金の問題なく学び自らの可能性を広げられる世界へ~)
12:00~13:00休憩 
13:00~14:00報告株式会社PitPa(海外人材還流におけるクロスボーダー型個人情報流通システム)
14:00~15:00報告みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(ものづくりのサプライチェーンにおける製品含有化学物質情報等の確実な伝達を可能とするChemical Management Platform(CMP))
15:00~16:00報告SBIホールディングス株式会社(事業所IDとそのデジタル認証基盤)
16:00~17:00報告Originator Profile 技術研究組合(Trusted Web Advertising System with OP)
3月4日(月)

10:00~11:00報告株式会社DataSign(ウォレットによるアイデンティティ管理とオンラインコミュニケーション)
11:00~12:00報告富士通Japan株式会社(大学技術職員の活躍に向けたスキルの見える化:スキルの質保証と主体的情報開示の試行)
12:00~13:00休憩 
13:00~14:00報告シミック株式会社(臨床試験及び医療現場における信頼性及び応用可能性の高い情報流通システム(該当分野:医療・ヘルスケア)
14:00~15:00報告株式会社ORPHE(下肢運動器疾患患者と医師、研究者間の信用できる歩行データ認証・流通システム)
15:00~16:00報告一般社団法人情報サービス産業協会(補助金事業を題材とした法人向け行政手続DX社会基盤化のプレ検討)
16:00~17:00報告大日本印刷株式会社(共助アプリにおけるプラットフォームを超えたユーザートラストの共有)
17:00~17:05閉会挨拶事務局



私はユースケース担当委員もやっていたので、4日(月)の午後に発表のあった、シミックさん、ORPHEさん、情報サービス産業協会さんの3事業者さんのメンタリングを1年かけて担当してきました。

今回の最終報告会でも簡単にコメントをしたので軽くご紹介しておきます。(詳しくは今後公開される動画をみてください)


シミック株式会社(臨床試験及び医療現場における信頼性及び応用可能性の高い情報流通システム)

ヘルスケアのユースケースです。臨床試験に参加する人が身につけているウェアラブルデバイスから上がってくるデータを医療機関および製薬企業へ同意を持って共有していく、という話です。さらにその際にデータが途中で改竄されていないことを検証可能にする、そしてデータ連携先となる医療機関や製薬企業の正当性についても検証可能にしていくということを目指しています。FitbitなどのウェラブルデバイスにKeyChainのコアを組み込んでデータへの署名をしていくという仕組みで実装しています。

私がコメントしたのはこんなところです。

  • PHRの観点では同意管理が重要な中、従来は個別でなんとなくな管理DBを作ってきたことを考えるとユニバーサルな仕組みとして応用可能性があり非常に大きな一歩となり得ると思う
  • 今後スケールしていくためには、以下の3点が大切である
    • より多くのウェアラブルデバイスベンダの巻き込み
    • より多くの医療機関、製薬企業の巻き込み
    • 個人の巻き込み
  • デバイスベンダを巻き込むにはインセンティブ設計とオープンネスが必要なので、治験に利用できるという認定などの制度設計との平仄合わせが必要になるのと、KeyChain以外の実装でも互換性を持ちつつ実装できる方法の検討が必要になりそうである
  • 個人の巻き込みの観点ではCGMのようにデバイスの普及とセルフメディケーションと医療費控除への繋げていくなどの仕組みも必要になりそうである

あまり当日は時間がなかったので技術面ではツッコミませんでしたが、技術標準へのフィードバックもこれらの実験から得られると良いと思います。


株式会社ORPHE(下肢運動器疾患患者と医師、研究者間の信用できる歩行データ認証・流通システム)

こちらもヘルスケアのユースケースです。シミックさんのケースとは共通点が多いのでこの2社には協力して実証をすすめていただいていました。こちらは靴にセンサーをつけて歩行情報などをとっていくというシナリオでした。


同じく、こちらのユースケースへの私のコメントはこんな感じでした。

  • 個人に対するインセンティブ設計が必要
    • ポイ活などとうまく連携して患者向けだけではなく健常者に対しても提供することで予防医療などにも繋げられる可能性があるのではないか
    • 現在の個人へのインセンティブはNFTの付与としているが、同意撤回を行うとポイントの返礼を行うモデルとなっている。これは同意解除にペナルティがある様に感じられる可能性があるので慎重に設計が必要ではないか
  • 医療機関に対するインセンティブ設計
    • 英国と日本の医療制度の比較が紹介されたのですが、英国における利用報酬は当該医療機関に登録された患者の頭数がベースとなる人頭報酬制度、日本の場合は診療行為に対するポイントをベースとして報酬制度となっていることから、人頭報酬となっている方が医師からすると患者が健康であればあるほど登録者数に比べて診療行為の負荷が減らせる=利益効率が良いというインセンティブも作れる可能性があるので、その辺りの制度設計も今後参考にできると良い
  • UXに関して
    • これはこのユースケースに限った話ではないのですが、Walletを使うモデルだとどうしても事業者のアプリやWebサービスとWalletのインタラクションが発生、どうして別の2つのモノを合わせて使わないといけないのか?を個人が受け入れられないケースがあると思います
    • まさにLaws of IdentityのJustifiable Partyって話だと思いますが、ユーザから見て本当に必要なのかが明確にわからない登場人物がインタラクションの中に入ってきてしまうのでUI/UXの面でうまく説明もしくはシームレスな遷移など工夫が必要だと思います

一般社団法人情報サービス産業協会(補助金事業を題材とした法人向け行政手続DX社会基盤化のプレ検討)

こちらは行政サービス(G2B)のシナリオですね。法人が行政手続き(補助金申請など)を行う際に必要となる法人確認情報(実在性確認+業務実態に関する情報)、その中でも特に業務実態に関する情報(いわゆるKYB情報)を民間の事業者の発行するエビデンスを集めてくることで信頼性を上げていきましょう、というシナリオでした。

こちらも私のコメントはこんな感じでした。
  • コミュニティについて
    • 事業スキームとしてコミュニティ形成が大切かつこのモデルになるとG2B文脈においても金融機関や携帯キャリアなどのKYC/KYB提供事業者をコミュニティの一員として迎え入れる必要が出てきます
    • 一方で金融機関や携帯キャリアなどからするとなぜこのコミュニティに参加しなければならないのか?儲かるのか?が関心事となるはずなので、彼らにとってのビジネスの可能性をどうやって示せるのか?は重要なポイントになるはずです
    • そのためにもまずは行政サービスがファーストペンギンになって、その後でこのスキームは民間サービスでも利活用できるんだ、ということを広げていくムーブメントが必要になってくるんだと思います
  • Walletについて
    • どうしてもWalletというと個人のスマホに入ったアプリケーションを想起させてしまうので、法人Walletは別の言い方を含めて考えた方がよさそうです
    • 個人の場合は発行と提示を切り離すことによるプライバシーインパクトの低減などWalletを使うベネフィットは語りやすいのですが、法人の場合は単にポータルとAPIでいいんじゃない?という意見も出てくると思います


他にも多くのユースケース実証が行われましたので先日発行されたホワイトペーパー3.0と合わせてみてみてください。今後Verifiable Credentialsを使うことを検討されている方々にとっては必須の情報ばかりだと思います。

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