(数日前まで登壇の事実を忘れていたので事前準備・告知など全くできず・・・)
当日の資料はこちら
ID連携における仮名 from Naohiro Fujie
当日行ったデモの内容を含め、少し補足しておきたいと思います。
◆仮名(カメイ)とは
仮名(カメイ/pseudonym)とは、プライバシーに考慮しつつID連携を行いたい、というユースケースに対応した仕組みです。
例えば、企業グループ内で共有しているサービスにおいては、あらかじめ信頼したIdentity Provider(IdP)で認証された、という事実だけがあれば本来個人を特定する情報(氏名やメールアドレス)は不要なはずです。(アプリケーションの動作上、もしくは運用上必要になるケースはありますが)
しかし、実際のID連携のシナリオでは「なんとなく」様々な属性が連携されており、ID連携をしている複数のサービス間でユーザ情報の名寄せが出来てしまったりするケースが散見されます。
エンタープライズシナリオにおいては問題になることはあまりありませんが、複数のService Provider(SP)が存在し、かつ運営主体が別個であるコンシューマシナリオやセンシティブな情報を扱うシナリオ(例えば医療情報などを扱うSPを含むシナリオ)ではユーザ情報の名寄せは問題となることがあります。
そんな時、サービス毎にユニークな名前(ハンドルネームのようなイメージ)をIdPが自動的に発行することで名寄せを防ぎます。このユニークな名前のことを「仮名」と呼びます。
また、仮名には、
・永続的な仮名
・一時的な仮名
があります。
永続的な仮名は同じSPに対しては何度ログインし直しても毎回同じ仮名が発行されますので、SP側でデータを持つ場合でも継続してサービスを使うことが出来ます。
一方で一時的な仮名はSPに対してログインする度に異なる仮名が発行されるので、同じサービス内でのID情報(前回のログイン時に行った振る舞いなど)を紐づけられる心配はありません。
◆ID連携プロトコルにおける仮名
スライドではSAMLを例に紹介しましたが、ws-federationやSAML、OpenID Connectなどの各種ID連携プロトコルにおいて仮名が実装されています。(PPID/Private Personal Identifierとか呼んだりしています)
SAMLにおいてはNameID Formatで表現しており、
・永続的仮名では「urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:persistent」
・一時的仮名では「urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:transient」
が使われます。
◆AD FSでの仮名のサポート
これまであまり話題に上りませんでしたが、AD FSでも当然仮名を扱うことが出来ます。
ずいぶん前の記事ですが、このあたりでこっそりと紹介されています。
Technet
When to Use a Custom Claim Rule
http://technet.microsoft.com/en-us/library/ee913558.aspx
- Example: How to issue a PPID claim based on an LDAP attribute
MSDN blog
Name Identifiers in SAML assertions
http://blogs.msdn.com/b/card/archive/2010/02/17/name-identifiers-in-saml-assertions.aspx
簡単に解説すると、AD FSにはビルトインで「_OpaqueIdStore」というIDストアが定義されており、そこから適切なNameID Format(persistent/transient)をプロパティとしてつけてクレームを発行する、という手順になります。
以下に設定例を紹介します。
(基本はMSDN blogの手順です)
◆永続的仮名を発行する場合
対象のRelying Partyのクレームルール(要求変換規則)に以下の2つのルールを定義します。
1._OpaqueIdStoreからIDの払い出し
以下のカスタムルールを直接記載します。
c:[Type == "http://schemas.microsoft.com/ws/2008/06/identity/claims/windowsaccountname"] => add(store = "_OpaqueIdStore", types = ("http://mycompany/internal/persistentId"), query = "{0};{1};{2}", param = "ppid", param = c.Value, param = c.OriginalIssuer);
2.払い出された値をNameIDとして発行する
GUIで設定可能です。
・[入力方向の要求の種類]に1で発行した際のtypeを指定します
・[出力方向の名前IDの形式]に[永続ID]を指定します
実際に払い出されるSAML AssertionをみるとNameID Formatに「urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:persistent」が設定されていて、不必要な属性(名前やメールアドレスなど)が発行されていないことがわかります。
<samlp:Response ID="_8b9add32-95c9-47ae-b0f7-fe8719b14207" Version="2.0" IssueInstant="2014-12-20T07:57:32.137Z" Destination="https://sp.example.com/acs" Consent="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:consent:unspecified" InResponseTo="dlmfilinoelgaclpmbbiiknifkjngebcocfoocan" xmlns:samlp="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:protocol" > <Issuer xmlns="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:assertion">http://idp.example.local/adfs/services/trust</Issuer> <samlp:Status> <samlp:StatusCode Value="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:status:Success" /> </samlp:Status> <Assertion ID="_f9880ee1-5236-4a03-911a-dc41d4d6e589" IssueInstant="2014-12-20T07:57:32.137Z" Version="2.0" xmlns="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:assertion" > <Issuer>http://idp.example.local/adfs/services/trust</Issuer> <ds:Signature xmlns:ds="http://www.w3.org/2000/09/xmldsig#"> <ds:SignedInfo> <ds:CanonicalizationMethod Algorithm="http://www.w3.org/2001/10/xml-exc-c14n#" /> <ds:SignatureMethod Algorithm="http://www.w3.org/2001/04/xmldsig-more#rsa-sha256" /> <ds:Reference URI="#_f9880ee1-5236-4a03-911a-dc41d4d6e589"> <ds:Transforms> <ds:Transform Algorithm="http://www.w3.org/2000/09/xmldsig#enveloped-signature" /> <ds:Transform Algorithm="http://www.w3.org/2001/10/xml-exc-c14n#" /> </ds:Transforms> <ds:DigestMethod Algorithm="http://www.w3.org/2001/04/xmlenc#sha256" /> <ds:DigestValue>qtaUKLYlHQjHAszsestllzzSlwKG/GnfxBTM0LALHmM=</ds:DigestValue> </ds:Reference> </ds:SignedInfo> <ds:SignatureValue>KC2HtMYzjIQ...snip...bhQ3Dg3QBlpcmiA==</ds:SignatureValue> <KeyInfo xmlns="http://www.w3.org/2000/09/xmldsig#"> <ds:X509Data> <ds:X509Certificate>MIIC+jCC...snip...E94b3S4cuw==</ds:X509Certificate> </ds:X509Data> </KeyInfo> </ds:Signature> <Subject> <NameID Format="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:persistent">Eh1as1gTWtagxAk+ECEuTnu/dzUS2fyOnx3ER/NMCeg=</NameID> <SubjectConfirmation Method="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:cm:bearer"> <SubjectConfirmationData InResponseTo="dlmfilinoelgaclpmbbiiknifkjngebcocfoocan" NotOnOrAfter="2014-12-20T08:02:32.137Z" Recipient="https://sp.example.com/acs" /> </SubjectConfirmation> </Subject> <Conditions NotBefore="2014-12-20T07:57:32.121Z" NotOnOrAfter="2014-12-20T08:57:32.121Z" > <AudienceRestriction> <Audience>sp.example.com</Audience> </AudienceRestriction> </Conditions> <AttributeStatement> <Attribute Name="http://custom/identity/claims/age"> <AttributeValue>I am 25 years old.</AttributeValue> </Attribute> </AttributeStatement> <AuthnStatement AuthnInstant="2014-12-20T07:57:31.839Z" SessionIndex="_f9880ee1-5236-4a03-911a-dc41d4d6e589" > <AuthnContext> <AuthnContextClassRef>urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:ac:classes:PasswordProtectedTransport</AuthnContextClassRef> </AuthnContext> </AuthnStatement> </Assertion> </samlp:Response>
発行されているのは、
・発行元(Issuer):SPがあらかじめ信頼したIdPのEntityID
・識別子(NameID):仮名
・年齢(age):I am 25 years old.(カスタムスキーマを設定して年齢だけ渡すルールを別途書いています)
・認証情報(AuthnContextClassRef):urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:ac:classes:PasswordProtectedTransport(パスワードで認証されたことを示します)
といった情報くらいです。
サービスは「あらかじめ信頼したIdP」で「パスワードで認証された」ユーザで「18歳以上(25歳という属性より)」であることがわかるので、ログインを許可しコンテンツを利用させることが出来る、と判断することが出来ます。
また、発行されたNameIDは前回同じユーザがログインした時のものと同じ値なので、サービス側で保持している情報との紐づけも可能となります。
◆一時的仮名を発行する場合
同じく、対象のRelying Partyのクレームルール(要求変換規則)に以下の2つのルールを定義します。
1._OpaqueIdStoreからIDの払い出し
以下のカスタムルールを直接記載します。
c1:[Type == "http://schemas.microsoft.com/ws/2008/06/identity/claims/windowsaccountname"] && c2:[Type == "http://schemas.microsoft.com/ws/2008/06/identity/claims/authenticationinstant"] => add(store = "_OpaqueIdStore", types = ("http://mycompany/internal/sessionid"), query = "{0};{1};{2};{3};{4}", param = "useEntropy", param = c1.Value, param = c1.OriginalIssuer, param = "", param = c2.Value);
2.払い出された値をNameIDとして発行する
GUIで設定可能です。
・[入力方向の要求の種類]に1で発行した際のtypeを指定します
・[出力方向の名前IDの形式]に[一時ID]を指定します
実際に払い出されるSAML AssertionをみるとNameID Formatに「urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:transient」が設定されていて、不必要な属性(名前やメールアドレスなど)が発行されていないことがわかります。(先の永続IDに発行されたAssertionとNameID部分だけが異なります)
<NameID Format="urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:nameid-format:transient">luV8SsaKfGB+vn3IpxhsUL1M/EekpM5E4S20YhWp1Go=</NameID>
こちらも同じく発行されているのは、
・発行元(Issuer):SPがあらかじめ信頼したIdPのEntityID
・識別子(NameID):仮名
・年齢(age):I am 25 years old.(カスタムスキーマを設定して年齢だけ渡すルールを別途書いています)
・認証情報(AuthnContextClassRef):urn:oasis:names:tc:SAML:2.0:ac:classes:PasswordProtectedTransport(パスワードで認証されたことを示します)
といった情報くらいです。
サービスは「あらかじめ信頼したIdP」で「パスワードで認証された」ユーザで「18歳以上(25歳という属性より)」であることがわかるので、ログインを許可しコンテンツを利用させることが出来る、と判断することが出来ます。
また、発行されたNameIDは前回同じユーザがログインした時のものとは異なる値なので、サービス側では前回ログインしたユーザと今回ログインしてきたユーザが同じユーザであることが判別できないので、サービス内部でのユーザの紐づけは出来ません。
◆仮名を使う場合の注意点
せっかく仮名を使ったとしても、他にユーザを一意にする属性(メールアドレスなど)をAssertionの中に含めてしまうと仮名を使う意味が全くなくなってしまうので注意が必要です。
(おそらくディレクトリ同期したユーザの情報とAD FSが発行するクレームの紐づけをする必要があるが故にではありますが)悪い例として、Office365のID連携ではNameIDは永続的仮名を使うのですが、別途IDP Emailという属性でメールアドレスを設定する必要があるので、実は仮名の使い方としては意味がありません。
アプリケーションとのID連携を設計する際は、必要とされるプライバシー要件を十分に考慮して利用するNameIDのタイプや連携する属性を検討しましょう。
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