2025年1月12日日曜日

ECDSAに対応したゼロ知識証明の論文がGoogleから出ています

こんにちは、富士榮です。

AAMVAのモバイル運転免許証のガイドラインでも触れましたが、mdocやSD-JWTのリンク可能性へ対応するためには今後ゼロ知識証明が大切になります。

年末にGoogleの研究者が

Anonymous credentials from ECDSA

というタイトルでペーパーを出しています。

https://eprint.iacr.org/2024/2010

AIでイラスト生成すると色々とおかしなことになって面白いですねw

アブストラクトの中からポイントを抜粋すると、従来のBBS+では暗号スイートへの対応に関する要件が厳しかったのでレガシーで対応できるようにECDSAでもできるようにしたよ、ということのようですね。

Part of the difficulty arises because schemes in the literature, such as BBS+, use new cryptographic assumptions that require system-wide changes to existing issuer infrastructure.  In addition,  issuers often require digital identity credentials to be *device-bound* by incorporating the device’s secure element into the presentation flow.  As a result, schemes like BBS+ require updates to the hardware secure elements and OS on every user's device.

その難しさの一部は、BBS+などの文献に記載されているスキームが、既存の発行者インフラストラクチャにシステム全体にわたる変更を必要とする新しい暗号化前提条件を使用していることに起因しています。さらに、発行者は、デバイスのセキュアエレメントを提示フローに組み込むことで、デジタルID認証をデバイスに紐づけることを求めることがよくあります。その結果、BBS+のようなスキームでは、すべてのユーザーのデバイスのハードウェアセキュアエレメントとOSのアップデートが必要になります。

In this paper, we propose a new anonymous credential scheme for the popular and legacy-deployed Elliptic Curve Digital Signature Algorithm (ECDSA) signature scheme.  By adding efficient zk arguments for statements about SHA256 and document parsing for ISO-standardized identity formats, our anonymous credential scheme is that first one that can be deployed *without* changing any issuer processes, *without* requiring changes to mobile devices, and *without* requiring non-standard cryptographic assumptions.

本稿では、広く普及し、レガシーシステムにも導入されている楕円曲線デジタル署名アルゴリズム(ECDSA)署名スキームのための新しい匿名クレデンシャルスキームを提案する。 SHA256に関する効率的なzk引数と、ISO標準化されたIDフォーマットの文書解析を追加することで、この匿名クレデンシャルスキームは、発行者側のプロセスを変更することなく、モバイルデバイスの変更を必要とすることなく、また、非標準の暗号化前提条件を必要とすることなく実装できる初めてのスキームです

 なかなか期待できますね。生成速度に関してもこのような記載があります。

Our proofs for ECDSA can be generated in 60ms.  When incorporated into a fully standardized identity protocol such as the ISO MDOC standard, we can generate a zero-knowledge proof for the MDOC presentation flow in 1.2 seconds on mobile devices depending on the credential size. These advantages make our scheme a promising candidate for privacy-preserving digital identity applications.

当社のECDSAの証明書は60ミリ秒で生成できます。ISO MDOC標準のような完全に標準化されたアイデンティティプロトコルに組み込まれた場合、クレデンシャルのサイズにもよりますが、モバイルデバイス上でMDOCプレゼンテーションフロー用のゼロ知識証明書を1.2秒で生成できます。これらの利点により、当社の方式はプライバシー保護型デジタルアイデンティティアプリケーションの有望な候補となっています。

mdocのプレゼンテーション時にゼロ知識証明を1.2秒で生成、このくらいなら実用性がありそうですね。

論文の本文もPDFで閲覧できるようになっているので、おいおい見ていこうと思います。

 

 


2025年1月1日水曜日

Intention Economyその後

こんにちは、富士榮です。

年末にDoc SearlsがIntention Economyについて「The Real Intention Economy」というポストをしています。かなり重要なポストだと思うので読んでおいた方が良さそうです。


彼の著書は日本語にも翻訳されていますね。


さて、今回のDocのポストに戻ると、彼がIntention Economyの考え方を発表してからもう直ぐ20年が経とうとしている現在、生成AIの文脈も相まって、Intention Economy自体が脅威となりつつある、という話です。

Intention Economyで検索すると結構ヤバ目の結果が返ってくるようになっているとのこと。
要するにIntention Economyというキーワードが悪用されつつある、ということですね。

こんなことも書かれていると言っています。
The near future could see AI assistants that forecast and influence our decision-making at an early stage, and sell these developing “intentions” in real-time to companies that can meet the need – even before we have made up our minds.

近い将来、AI アシスタントが早い段階で私たちの意思決定を予測して影響を与え、私たちが決断を下す前であっても、その発展中の「意図」をニーズを満たすことができる企業にリアルタイムで販売するようになるかもしれません。

同じくこんな引用もされています。
The rapid proliferation of large language models (LLMs) invites the possibility of a new marketplace for behavioral and psychological data that signals intent.

大規模言語モデル (LLM) の急速な普及により、意図を示す行動および心理データの新しい市場が生まれる可能性が生まれています。


もともと顧客の関心(Attention)を商品として販売するというモデルに対するアンチテーゼの文脈としての意図(Intention)を中心とした経済としてIntention Economyだったはずですが、その意図自体を商品として販売する、という市場が形成されてきつつあるということですね。

人間の欲望は果てしないわけですが、私たちは思想の源流をきちんと見据え、意図を理解した上で社会実装を進めたいものです。