2024年11月16日土曜日

続)リンク可能性、リンク不可能性の話

こんにちは、富士榮です。

デジタルIDウォレット時代にもアイデンティティの名寄せ・紐付けによるコンテキストを超えた属性情報の意図せぬ開示によるプライバシー問題については無くなることはありません。
デジタルクレデンシャルに関するリンク可能性については各所で議論されており、早く解決されないと本格的な社会実装を行う上で大きな障壁となると思います。



ということで、昨日紹介したWayneの資料を読んで行きましょう。

ちなみにこのネタ、9月にNISTでもプレゼンしたみたいです。

EUでもウォレットの管理とリンカビリティの問題が結構話題になっているようなので、この領域は実際に国が管理や認定するウォレットを使って行こうとすると課題になるんでしょうね。

ということで中身をかいつまんで。

まず背景と課題提起の部分です。
Developing models to implement this VDC future requires carefully thinking through every risk of the new model–including risks in the future. One of the edge-case risks privacy researchers have identified is sometimes known as “linkability.”

このVDCの将来を実現するためのモデルを開発するには、新しいモデルのあらゆるリスクを慎重に検討する必要があります。プライバシー研究者が特定したエッジケースのリスクの1つは、時として「リンク可能性」として知られています。

ちなみにVDCはVerifiable Digital Credentialsの略です。VCとかmDLとかですね。

 

Linkability refers to the possibility of profiling people by collating data from their use of digital credentials. This risk commonly arises when traceable digital signatures or identifiers are used repeatedly, allowing different parties to correlate many interactions back to the same individual, thus compromising privacy. This can create surveillance potential across societies, whether conducted by the private sector, state actors, or even foreign adversaries.

リンク可能性とは、デジタル認証の利用に関するデータを照合することで、人々をプロファイリングできる可能性を指します。このリスクは一般的に、追跡可能なデジタル署名や識別子が繰り返し使用される場合に発生し、さまざまな当事者が多くのやりとりを同一人物に相関させることを可能にし、プライバシーを侵害します。これは、民間部門、国家、さらには外国の敵対者によって実施されるかどうかに関わらず、社会全体にわたって監視の可能性を生み出す可能性があります。

リンク可能性そのものについての説明です。前回書いたように識別子による名寄せの課題はこれまでもありましたが、デジタル署名についても明記されていますね。今回の話のキモは署名による名寄せですね(後述)。まぁ、名寄せできる=リンクできてしまう、という話でプライバシーリスクにつながるって話です。 


In this work, we explore an approach that adds privacy by upgrading existing systems to prevent linkability (or “correlation”) and instead of overhauling them entirely. It aims to be compatible with already-deployed implementations of digital credential standards such as ISO/IEC 18013-5 mDL, SD-JWT, and W3C Verifiable Credentials, while also aligning with cryptographic security standards such as FIPS 140-2/3. It is compatible with and can even pave the way for future privacy technologies such as post-quantum cryptography (PQC) or zero-knowledge proofs (ZKPs) while unlocking beneficial use cases today. 

今回の研究では、既存のシステムを全面的に再構築するのではなく、リンク可能性(または「相関性」)を防止するためにアップグレードすることでプライバシーを追加するアプローチを模索しています。ISO/IEC 18013-5 mDL、SD-JWT、W3C Verifiable Credentials などのデジタル認証基準の実装と互換性を保ちつつ、FIPS 140-2/3 などの暗号化セキュリティ基準にも適合することを目指しています。また、ポスト量子暗号(PQC)やゼロ知識証明(ZKPs)などの将来のプライバシー技術との互換性があり、それらの技術への道筋をつけることさえ可能です。同時に、今日有益なユースケースの鍵を開けることにもなります。 

PQCやZKPをうまく使ってこの問題を解けないか?というのはIIWでも語られていたことなので、やはり注目を集めている分野なのかと。


前回も仮名の話を紹介しましたが、この話はSAMLの時代からずっとあった話なのですが、なぜ今、改めて課題として取り上げられているのか?について以下のように触れられています。

Governments are rapidly implementing digital identity programs. In the US, 13 states already have live mobile driver’s license (mDL) programs, with over 30 states considering them, and growing. Earlier this year, the EU has approved a digital wallet framework which will mandate live digital wallets across its member states by 2026. This is continuing the momentum of the last generation of digital identity programs with remarkable uptake, such as India’s Aadhaar which is used by over 1.3 billion people. However, it is not clear that these frameworks plan for guarantees like unlinkability in the base technology, yet the adoption momentum increases.

各国政府はデジタルIDプログラムを急速に導入している。米国では、すでに13の州がライブ・モバイル運転免許証(mDL)プログラムを導入しており、30以上の州が検討中で、その数は増加している。今年初め、EUは2026年までに加盟国全体でライブ・デジタル・ウォレットを義務付けるデジタル・ウォレット枠組みを承認した。これは、13億人以上に利用されているインドのAadhaarのような、顕著な普及を遂げた前世代のデジタルIDプログラムの勢いを引き継いでいる。しかし、これらのフレームワークが、ベース技術におけるリンク不能性のような保証を計画 していることは明らかではないが、それでも採用の勢いは増している。 

Some think that progress on digital identity programs should stop entirely until perfect privacy is solved. However, that train has long left the station, and calls to dismantle what already exists, has sunk costs, and seems to function may fall on deaf ears. There are indeed incentives for the momentum to continue: demands for convenient online access to government services or new security systems that can curb the tide of AI-generated fraud. Also, it’s not clear that the best approach is to design the “perfect” system upfront, without the benefit of iterative learning from real-world deployments.

完全なプライバシーが解決されるまで、デジタルIDプログラムの進展は完全に停止すべきだという意見もある。しかし、その列車はとっくに駅を出発しており、すでに存在し、サンク・コストがあり、 機能しているように見えるものを解体しようという声は耳に入らないかもしれない。政府サービスへの便利なオンライン・アクセスの要求や、AIが生み出す詐欺の流れを抑制する新しいセキュリティ・システムなどだ。また、「完璧な」システムを前もって設計することが最良のアプローチなのかどうかも定かではない。 

国民IDやモバイル運転免許証をはじめ、ウォレットを中心としたモデルが導入されてきており、改めてこの問題について解決が必要になっている、というところですね。

具体的な課題と緩和策については次回以降で見ていきたいと思います。

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