2024年9月16日月曜日

Google Walletへ搭載できる証明書

こんにちは、富士榮です。

Gogole Walletへの米国パスポートの搭載が先日発表されましたね。
崎村さんがGoogleのアナウンスについてポストされているのでこちらを見ると良いと思います。

簡単にいうと、米国のパスポートをGoogle Walletへ格納することができるいう話で、現在はまだ紙のパスポートと併用、かつTSAチェックでしか使えないが、将来的にはもっと使える場所の拡大をしていこう、としているという話です。

日本でも早く使えるようになるといいですねぇ。
まだ、日本では決済以外だとイベントのチケットや航空券やポイントカードなどが搭載できるくらいですし。

日本で追加できるのは
  • 支払いカード
  • ポイントカード
  • ギフトカード
  • 写真
の4カテゴリ。


ポイントカードは色々と使えるものが増えていますね。


ところで、米国を含む海外ではGoogle Walletは何に使えるのかみていきましょう。

Google Walletのヘルプページを見ると色々なものが搭載できるようになっているようです。
https://support.google.com/wallet/answer/12059409?hl=ja&ref_topic=11925097&sjid=8720886013754835920-AP

日本語ページなのでちょっと直訳感がありますが、右側のナビゲーションを見ると、関連トピックスとしてこちらが記載されています。
  • お支払い方法
  • 搭乗券やイベント チケットを保存して使用する
  • ポイントカードとギフトカード
  • Google ウォレットを公共交通機関で使用する
  • Google ウォレットにヘルスパスを追加する
  • 自動車用デジタルキー
  • Google ウォレットに学生 ID を保存する
  • 米国の運転免許証または州発行の身分証明書を追加する
  • Google ウォレットに社員バッジを保存する
  • Use transit loyalty cards in Google Wallet (UK only)
  • スマートウォッチの Google ウォレットでパスを使用する
  • Google ウォレットのパスの分類
  • Google ウォレットのリンクされたパスについて
  • Google ウォレットのウェブサイトの利用を開始する
  • ホテルキー

ヘルスパスはワクチン接種証明で日本もやっていましたね。

その他ポイントカードなど日本も使えるもの以外を見ていくと、
  • 自動車用デジタルキー
  • 学生ID
  • 米国の運転免許証または週発行の身分証明書(今回のパスポートの件はこちらですね)
  • 社員バッジ
  • Transit loyalty card
  • ホテルキー
などが面白そうです。
自動車の鍵だと古くからCCC(Car Connectivity Consortium)が取り組んできた活動はありますが、電子運転免許証(mDL)と連携していく動きは活発化していきそうですね。

学生IDも面白いトピックです。
マサチューセッツ工科大学(MIT)が2021年にアナウンスしたデジタル学生証や、卒業証明書のデジタル化の動きはエポックメイクングでしたが、Googleのヘルプを見ると「米国、カナダ、オーストラリアの加盟大学」がこの機能を使えるようになっているようです。

社員バッジも学生IDと同様に普及していくと面白いですね。


Credential APIも本格化してきましたし、引き続きこの分野は要ウォッチです。






2024年9月15日日曜日

デジタル認証アプリを利用するサービス一覧が更新

こんにちは、富士榮です。


デジタル認証アプリと連携するサービス(事業者)一覧が大幅に更新されています。

https://services.digital.go.jp/auth-and-sign/case-studies/



2024年6月にアプリがリリースされた際は横浜市と三菱UFJ銀行のアプリの2つだけでしたが、この3ヶ月で15個まで増えています。

6月時点のポスト

https://idmlab.eidentity.jp/2024/06/blog-post.html


ざっとみていくと、

  • 事業者や自治体のアプリそのものが連携するパターン
  • 都市OSやIDaaSなどのプラットフォームが連携するパターン
  • 本人確認アプリなど他の事業者アプリから呼び出されるアプリが連携するパターン
に分類されそうです。


短期間で多くのサービスと連携できるようになってきているのは非常に良いことだと思いますが、この辺りに書いたようにアプリの乱立や認証アプリと連携したアプリがあたかもマイナンバーカードそのものを使った本人確認とみなされるようなミスリードが起きないように注意が必要ですね。
マイナンバーカードを読み取るアプリがいっぱい
デジタルクレデンシャルによる「本人確認」と「身元確認」


2024年9月14日土曜日

DIFハッカソンのプレ登録が開始されています

こんにちは、富士榮です。

Decentralized Identity Foundationは割と定期的にハッカソンをやっています。
今年もプレ登録が開始されているので参加してみてはいかがでしょうか?

なお、今年のテーマは
Education, Reusable Identity, and Travel.
ということなので、割と想像しやすいですし実装のアイデアも湧いてきやすいかもしれませんね。

昨年は日本の学生さんが受賞してInternet Identity Workshopへ参加されるなど活躍していましたので、今年も続くといいですね。


2024年9月13日金曜日

OpenID Connect for Identity Assurance最終仕様の投票が始まります

こんにちは、富士榮です。



ついに、OpenID Connect for Identity Assuranceの仕様のファイナライズです。
こちらでお知らせした通り、最終の投票に関するアナウンスがありました。

6年くらいやってますからね。ようやく、です。

こちらがオフィシャルの告知です。

以前もお知らせした通り、
9/16 早期投票開始
9/23-30 本投票
というスケジュールで動きます。

ぜひ投票してください。

2024年9月11日水曜日

SIDI HubワシントンD.C.会合クィックレビュー

こんにちは、富士榮です。

昨日(US東海岸の時間で9/9)はSIDI HubのワシントンD.C.会合に参加してきました。
2024年のゴールである11月のリオデジャネイロに向けたワールドツアー(?)の3回目の会合です。そして、来月10月の東京会合に向けた諸々調整事項もあり参加必須ということで参加してきました。

そんなこんなでメインアジェンダとは別でサイドミーティングがてんこ盛りで充実した1日だったわけですが、軽く振り返ります。

アジェンダはこんな感じでした。

例によっていろんな人と話をしないといけないDinnerという名前でほぼ何も食べられない立ち話はありますが、それを含め充実した1日です。詰め込み過ぎなくらいです。

基本スタイルは各セッションオーナーが燃料投下として小ネタを話し、そこからフルでディスカッションという流れなので容赦ないです。

全体のアジェンダの流れとしては、これまでのケープタウン、ベルリンで絞り込んだ4つのユースケースである、銀行口座の開設、難民、教育、国境を超えた取引きについて課題の抽出からシナリオの特定、必要となる要件の洗い出しを行う、という流れです。

シナリオの特定を行う上では当該分野のドメイン・エキスパートを招待して簡単に状況を話してもらい、それに対してみんなでディスカッション、という形なので実はエキスパート同士で話をするのに比べてそれぞれの議論は浅い傾向がありますが、これを各地域で行うことで地域特性が浮き彫りになるのでこれはこれで意味がある進め方だと思います。

たとえば、教育クレデンシャルの話が出ましたが、民間資格を含むマイクロクレデンシャルの利活用(主に経済活動にどう役に立てるのか?)に少しフォーカスが偏っていた気がしますが、その辺りがアメリカならではだな〜という感じで受け止めをするのが正解な気がしました。

ということで中身を軽く。

Welcome keynote - Carole House/NSC, Ryan Gailuzzo/NIST

NSCやNISTの人がキーノートをやってしまうあたりが東海岸ならではで非常に貴重な機会でした。
金融におけるKYCやサイバーアタック対策などにおいてデジタル・アイデンティティの重要性が語られたり、NISTの注目分野としてmDocやVerifiable Credentialsが挙げられ、その周辺技術であるOpenID for Verifiable Credentialsなどを含めNISTでは注目していることが強調されました。モバイル運転免許証のオンライン利活用や金融機関等での利用などに向けた分析を進めているようです。


Intro to Use Case Methodology - Elizabeth, Gail

チュートリアルですね。
改めてSIDI Hubが目指す姿として、デジタルアイデンティティが「メールやSMSやパスポートと同じく簡単にクロスボーダーで使えるもの」となるべきである、という思想が示され、そのために、必要となるコンポーネントの青写真を描き、ローカルでの採用〜コンフォーマンスをとっていく、そのために相互運用性のあるデジタルクレデンシャルが大切である、という話がされました。

また、これまで昨年のパリから始まりケープタウン、ベルリンを経た現在地として、
  • 4つのユースケースに絞り込んだ。DCと東京ではディープダイブすることが大事
  • グローバルにおけるデジタルIDの相互運用性の課題については認識できたが、Domestic focusが残っている
  • グローバルサウスから参加する個人に対する資金提供の課題。これができないとトラストフレームワークの分析などが進まない
  • 国やMultilateral engagementやfundとが限られている。フォーマルエンティティがいないと2025年以降の持続性に課題がある
と言った課題を含む現状が語られました。

それらを踏まえて今回のワシントンD.C.のゴールとして以下の4点が設定されました。
  • チャンピオンとなりうる4つのユースケース(銀行口座の開設、難民、教育、国境を超えた取引き)を深く掘り下げる
  • 2つのユースケース(銀行口座の開設、難民)の技術的要件を深掘りする
  • デジタルIDに関するガバナンス、トラストフレームワーク分析に関するフィードバックを得る
  • 不足しているユースケースに関する地域特性を踏まえたフィードバックを得る



Use Case Deep Dives〜Minimum Requirements

ここからはRoom1/2に分かれて銀行口座の開設と難民の2つのテーマについて議論が行われました。私は難民側を聞いたのでここでは難民の話を書きます。
いずれオフィシャルにレポートが出てくると思いますので口座開設の方はレポートを楽しみにしておきましょう。

ディスカッション中心なので聞き取れていないところもありますが、気になったポイントを数点だけメモで書いておきます。
  • Age Verificationの観点でも難民の身元確認ができることは非常に重要。理由はAge Verificationが必要なサービス(インターネットの閲覧もその一つ)を難民に提供することすらできないため
  • UNHCRがやっている難民登録のプロセスについて。エチオピアでID4Africaと一緒にやっているが、特徴として複数の国と国境が面しているので把握が大変
  • UNHCRの難民ID登録システムであるPRIMESへの登録時のIdentity Verificationは非常に大変で時間がかかる。例えば家族が別々の経路を通じて入国してくることもあるので、関係性を証明する必要があったりする
  • 基本的には生体情報との紐付けを行う形をとる。まずは識別可能な状態を作り、そこに複数の属性を紐づけていくことでアイデンティティを形成していく、という積み上げ型によるアイデンティティ確立が必要となる

確かにエチオピアの地図を見ると、南北スーダン、ソマリア、エリトリア、ジブチ、ケニアと国境があり、ソマリアを超えるとすぐにイエメン、という中々なロケーションです。スーダンの状況やソマリア・ソマリランドの状況を考えると少なくとも東西からの難民の流入はかなり大変な状況になっていそうです。

なお、UNHCRの難民ID管理システムであるPRIMESについてはこちらのページで詳しく解説されています。


ちなみに、その後のディスカッション等で話を聞いたんですが、UNHCRのデジタルクレデンシャルを使って準国民IDのように扱える国も出てきているようです。ナイジェリアやフランスなどが該当し、難民IDを使って社会保障が受けられたり、というところまで適用が進んでいるそうです。同じくオランダでもAlien Document(在留カード)の発行の要件として使える、的な話もありました。

気になったので同じセッションに出ていたTSAの人にNISTのIALだとUNHCRの発行するアイデンティティはどこに該当するの?と聞いてみました。結果「うーん、2だろうなぁ・・・」って回答。意外ではありましたが、Self-AssertedではなくUNHCRが発行しているということを鑑みると確かに2(NIST SP800-63-3ベース)だろうな、、、と妙に納得。よくよく聞いてみると、米国でもネイティブアメリカンの身元確認にTribe IDを使うことがあり、Equityの観点からIAL2に位置付けているので基本的な考え方は一緒だ、と。さらに納得。(いいのか?)
このあたりはトラストフレームワーク・マッピングのアクティビティにもUNHCRのID保証に関する枠組みも入れてマッピングするように提言しておきました。

また、Minimum RequirementsのセッションではVerifyするための公開鍵の置き場所の話にもなり、分散型を使うべきなのか?みたいな話もありました。
個人的にはUNHCRがUNDPのインフラを使ってVDRを作ればいいんじゃない?って思いましたが。もしくは国連分担金に応じて各国にノードを分散配置するとか。アメリカに20%以上のサーバが置かれてしまうからダメか・・・
参考)国連分担金の割合


Educational Certificates Use Case

教育クレデンシャルの話です。
実は今回ドメインエキスパートがいなかった関係で割とあっさり表層的な話で終わってしまいました。
USマーケットをみるとOpenBadgeなどで実装されている民間発行を含むマイクロクレデンシャルにどうしてもフォーカスしてしまうんだな、という雑感です。アカデミアの外の実社会での利用イメージが想像しやすいですしね。

こんな感じで個人にとってどういうユースケースがあって、脅威と利点を分析する(というか会場の声を聞く)という感じで進んでいきました。


日本で開催するときはもう少し深掘りができるようにドメインエキスパートを招待しないとダメだよね、ってGailと話をしたりしました。


Guest Session: TSA's mDL Research Agreement - Jason/TSA

TSAのJasonからTSAがやっているmDLの利活用についての話です。結構面白かったです。
アメリカ国内便に乗る際、身分証明書の提示が求められるのですが、私たちのような国外からのVisitorはパスポートを見せるところを国内在住の人は運転免許証を見せるわけです。
これをモバイル運転免許証でデジタル化しよう、という話で、すでに社会実装が始まっている話です。

ジョージア州の運転免許証をiPhone/AndroidのWalletに格納するところのデモ動画なども紹介されました。
こちらからみることができます。

発行はこんな感じ。

提示もこんな感じですね。


Trust Framework Analysis - Elizabeth, Mark

OIXのNickが中心となり各国のトラストフレームワークのマッピングをやっている活動です。日本からもOpenIDファウンデーション・ジャパンの有志に参加してもらっています。

Walletを含むIdentityとクレデンシャルに関するトラストフレームワークのあり方についても検討が行われています。

後半、若干ショッキングな発表がありましたので、このワークストリームの行末が心配になりましたが、SIDI Hubとして何とか進めていけるといいな、と思います。

Governance of Digital Identity Systems - Scott, Shigeya, Gail

ワシントン大学のスコット先生、慶應の鈴木先生がGailの無茶振りを受けてのセッションです。

まだまだ検討が進みきっていない話で、ガバナンスのスコープをどこにするのか、その場合のステークホルダーは誰になるのか?を探していくフェーズです。


そして、最後に今後のロードマップについて説明があり、簡単なサーベイで会合はしめられました。



まずは、10月の東京に向けた準備ですね。頑張ります。



















2024年9月10日火曜日

SIDI Hub - ベルリンレポートを読む(1)

こんにちは、富士榮です。

今日からワシントンD.C.での会合が始まるSIDI Hubのワールドツアー(?)ですが、第1回のケープタウン会合、第2回のベルリンのレポートが公開されており、ここまでケープタウンのレポートをみなさんと一緒にみてきました。

参考)各レポートはこちらで紹介していますので原本はこちらをみてください。

第3回目となるワシントンD.C.会合の前までにベルリン会合の概要だけはみておきましょう。(ちなみに私も現地で参加しましたが、各テーマごとに会場でディスカッション〜アイテムへまとめていく、というワークショップ形式なので個人的にはまとめる時間が取れなかったのでこのレポートは相当嬉しいです)

ということで見ていきます。(まずは全体サマリーと技術に関連するところまでを)

サマリー

The SIDI Hub Summit in Berlin, Germany, followed the 2023 inaugural event in Paris and was the second of 5 Summits in 2024. The five summits are critical forums for progressing the five workstreams throughout the year.

ドイツのベルリンで開催されたSIDIハブ・サミットは、2023年のパリでの初開催に続くもので、2024年に開催される5つのサミットの2番目となる。この5つのサミットは、年間を通じて5つのワークストリームを推進するための重要なフォーラムである。 

5つのワークストリームはこれまでも書きましたが、以下の通りです。

  1. Champion Use Cases
  2. Trust Framework Mapping
  3. Minimum Technical Requirements
  4. Governance
  5. Metrics of Success
Approximately 50 attendees joined SIDI Hub Berlin on June 3, 2024 - the day before the European Identity and Cloud Conference (EIC). Due to the nature of who attends EIC, far more technical experts attended the Berlin Summit, whereas the Paris and Cape Town Summits included heavier representation from Governments. For this reason, the agenda emphasized naming barriers to interoperability, refining the approach for technical requirements gathering, and the interplay between Trust Frameworks and protocols. It also included a discussion on Champion Use Cases - particularly for the European context - and building a shared research
agenda. The feedback from these sessions will shape workstream activities and the structure of Summits to follow.
欧州アイデンティティ・クラウド会議(EIC)の前日である2024年6月3日、SIDIハブ・ベルリンに約50名の参加者が集まった。パリとケープタウン・サミットでは政府関係者が多く参加したのに対し、EICでは技術専門家が多く参加した
このため、アジェンダでは、相互運用性の障壁を挙げること、技術要件収集のアプローチを洗練させること、トラストフレームワークとプロトコルの相互作用が強調された。また、チャンピオンのユースケース(特に欧州の状況)についての議論や、
の共有研究アジェンダの構築も行われた。これらのセッションからのフィードバックは、ワークストリームの活動と、その後のサミットの構成を形作ることになる。

→レポートに書いている通り、European Identity & Cloud Conference(EIC)の前日に開催されたため、ケープタウンに比べると少し技術寄りだったかもしれません。また、アフリカに比べるとEUという一つの経済圏がすでに構築されていることがユースケースを考える上での特徴点となるのかもしれません。


主な成果

This section synthesizes that information into the high-level themes that the co-organizers took away from the event. Part 2 of this report consolidates the Rapporteur’s notes and many of the slides from the event itself.

本セクションでは、これらの情報を統合し、共同主催者がこのイベントから持ち帰ったハイレベルなテーマを紹介する。本報告書の第2部では、報告者のメモとイベントでのスライドをまとめた。

 

アーキテクチャのタイプ 

While there are vast numbers of configurations, profiles, and proprietary APIs related to the transmission of identity data, there are a limited number of architectural archetypes that need to be able to interoperate globally. In particular, those that are based on API connections between Identity Providers (IdPs) and Relying Parties (RP’s) and those that are mediated by an agent (“wallet”) that holds credentials issued to an end-user. Interventions to ensure interoperability of these solutions include options at the source (the IdP or the wallet) or at the destination (the Relying Party or Verifier). SIDI Hub participants remain in active discussion about whether there is a need for broad guidance about which interventions may be more appropriate or if the group should support both “fix-at-source” and “fix-at-destination” models.

ID データの伝送に関連する構成、プロファイル、および独自の API は膨大な数に上るが、グローバルに相互運用でき る必要があるアーキテクチャの原型は限られている。特に、ID プロバイダ(IdP)と依拠当事者(RP)間の API 接続に基づくもの、およびエンドユー ザに発行されたクレデンシャルを保持するエージェント(「ウォレット」)に仲介されるものである。これらのソリューションの相互運用性を確保するための介入には、ソース(IdP またはウォレット)またはデスティネーション(依拠当事者または検証者)におけるオプションが含まれる。SIDI ハブの参加者は、どの介入がより適切であるかについての広範なガイダンスが必要であるか、またはグループが「送信元での固定」と「宛先での固定」の両方のモデルをサポートすべきかについて、活発な議論を続けている。 

→従来のIdPとRPのモデルに加えてウォレットが間に入るモデルを考える場合の相互運用性等に関する深掘りが必要になる、という話です。抽象度を上げていくと単純に送信者と受信者になりますが、それぞれの特性がアーキテクチャによって異なるため相互運用のためのプロトコルや信頼性を確保するためのトラストフレームワークの互換性なども考慮する必要があります。

Verifierがマーケットを作る

A significant theme of feedback at both SIDI Hub and the EIC event that followed was that Verifiers (in this paragraph, the term is used interchangeably with Relying Party) represent the more challenging side of the marketplace - and that adding complexity or risk to Verifier implementations may make it harder to do business. This would lead to:

1. Slow adoption and use

2. Barriers to entry in multiple verticals

3. Exacerbated inclusion issues for smaller players.

Any solution needs to address these risks. On the other hand, SIDI Hub participants are also keenly aware that once an ecosystem is functioning, verifiers stand to benefit more than the issuers, who often bear the cost of implementation. The group was eager to explore opportunities to address this imbalance.

SIDI ハブとそれに続く EIC イベントでのフィードバックの重要なテーマは、検証者(この段落で は、この用語を依拠当事者と同じ意味で使用する)が市場のより困難な側面を代表しており、検証者の実装に複雑性やリスクを加えると、ビジネスが困難になる可能性があるということであった。その結果、以下のことが起こる:

1. 導入と利用の遅れ

2. 複数の業種における参入障壁

3. 小規模プレーヤーのインクルージョンの問題の悪化。

どのような解決策も、これらのリスクに対処する必要がある。他方、SIDI ハブの参加者は、エコシステムがいったん機能すれば、多くの場合、導入コストを負担す る発行者よりも検証者の方がより多くの利益を得る立場にあることも強く認識している。グループは、この不均衡に対処する機会を探ることに熱心であった。

→この話もいつも議論になるところですね。ビジネスモデルをどうするか、という話です。現状ではやはりVerifierが一番便益を得ることができそうだ、ということなので基盤やサービスを開発するときは十分に年頭におく必要がありそうです。


ユースケースの根拠となる要件(あるいは「抽象化の危険性)

 In exploring the set of 9 communication patterns between architectural archetypes, the Minimum Technical Requirements workstream concluded there was a limit to how much could reasonably be accomplished without the solid definition of a use case. As participants have pointed out, examples of successful cross-border interoperability efforts have been rooted in a specific problem space: passports for border crossings and air travel, credit card payments, a unified SAML profile for global access to educational institutions, etc. For this reason, the SIDI Hub Community continues its global listening and will work to define a set of 3-4 “Champion Use Cases” (and dive deeper into their respective requirements) throughout the next several Summits.

アーキテクチャ原型間の9つの通信パターンを検討する中で、最小技術要件ワークストリームは、ユースケースの確固とした定義なしに合理的に達成できることには限界があると結論づけた。参加者が指摘したように、国境を越えた相互運用性の取り組みが成功した例は、特定の問題空間に根ざしたものであった。たとえば、国境通過や航空旅行のためのパスポート、クレジットカード決済、教育機関へのグローバルアクセスのための統一SAMLプロファイルなどである。このような理由から、SIDIハブコミュニティはグローバルな聞き取り調査を継続し、今後数回のサミットを通じて、3~4件の「チャンピオンユースケース」の定義(およびそれぞれの要件への深掘り)に取り組む予定である。

→難しいところです。抽象化をしないと汎用的で互換性のあるシステムを構築することは難しくなりますが、ユースケース分析を進めれば進めるほど、「ユースケース依存」の話が大きくkなってくる、ということです。この辺りはアーキテクトの役割になるかと思います。

ブローカーとプロキシ

 Given the expectation that these archetypes continue to exist because states make sovereign choices, it is prudent to assume that interoperability may depend upon brokers and proxies. While this undermines any attempt at a global, fully decentralized, and peer-to-peer architecture - and it necessitates careful consideration for privacy (i.e., masked data) and governance - it does not necessitate a centralized database or “phone home” architecture.

The terms “Broker” and “Proxy” should not be used interchangeably. Instead, the former may imply a specific market opportunity and commercial interest with pros and cons. Meanwhile, “Proxy” is intended to be a pass-through technical component and implies nothing about a business model.

国家が主権的な選択をするからこそ、こうした原型が存在し続けるという期待を考えれば、相互運用性はブローカーやプロキシに依存する可能性があると考えるのが賢明だ。このことは、グローバルで、完全に分散化された、ピアツーピアのアーキテクチャの試みを損なうものであり、プライバシー(すなわち、マスクされたデータ)とガバナンスに対する慎重な配慮を必要とするものであるが、集中化されたデータベースや「フォンホーム」アーキテクチャを必要とするものではない。

ブローカー 「と 」プロキシという用語は、同じ意味で使うべきではなく、前者は特定の市場機会を意味し、長所と短所のある商業的利益を意味する。一方、「プロキシ」はパススルーの技術コンポーネントを意図しており、ビジネスモデルについては何も示唆しない。 

 →システム構成を考えるとブローカーやプロキシを配置するモデルが安易で現実的な解になるのは想像に硬くないのですが、どうしても依存度が上がってしまう(場合によってはSPOFとなってしまう)ことはリスクとして捉えておかないといけないと思います。また、ブローカーとプロキシの違いはビジネス的な価値の創出が行われるかどうか、というところで区切りをつけた、ということもこれからのアーキテクチャの詳細化に向けて重要な合意事項だったと思います。


他にもトラストフレームワークや政府の関与のあり方などもまとめられていますが、この辺りは次回にでも。まずは技術にフォーカスした部分だけを先行してお届けしました。

2024年9月9日月曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(6)

こんにちは、富士榮です。

明日からSIDI HubワシントンD.C.会合だというのにケープタウンのレポートまでしか紹介できませんでした。ベルリン会合のレポートも順次読んでいこうと思いますが、今回でケープタウンのレポートも終わりですので、まずはここまで。


同じタイミングでAlan Turing Instituteがケープタウンで開催した「International Conference on Trustworthy Digital Infrastructure 2024」とのジョイントセッションがSIDI Hubケープタウン会合の最後のプログラムです。

International Conference on Trustworthy Digital Infrastructure 2024

https://www.turing.ac.uk/events/international-conference-trustworthy-digital-infrastructure-2024

Alan Turingといえばエニグマ暗号の解読に成功したイギリスの数学者ですね。第二次世界大戦中にドイツのUボートの暗号通信の解読を行うことで連合国が枢軸国に対する勝利を収めるのを早めた、と言われている人です。いわゆるチューリングマシンとかチューリングテストの人ですね。

Alan Turing Instituteのイベントでは、以下のようなトピックが取り上げられたようです。
  • より安全なデジタル公共インフラ
  • デジタルウォレット-EUの制度と比較、子供の登録
  • ケニアにおけるヌビア人の権利
  • ドイツ開発庁:アフリカにおけるハイテク技術のためのデジタルインフラアーキテクチャーの再考
  • デジタルIDのDNA:フレームワークを超えて
  • 中国の医療システムにおける信頼の役割
  • デジタル基盤IDのためのLLM
  • 分散型エコシステムのためのトラスト実装モデル
  • 労働者のデジタルインフラLLM
  • 英国AI安全研究所はLLMの信頼スコアカードを作成
  • 出所を決定するデジタルID標準の役割に関する議論

SIDI HubはAlan Turing Instituteとの協業関係を築くための方法について議論・検討が行われたとのことです。このようにアカデミアとのつながりを築くのはとても大切なことですね。
他にもSIDI Hubとアカデミアとのつながりとしてはこのようなものが挙げられます。

プライバシー領域
  • ノルウェー科学技術大学
  • ジョージタウン大学
  • カーネギーメロン大学
セキュリティ領域
  • シュトゥットガルト大学
  • チューリング
  • NIST
  • 英国の大学
その他
  • ISOC/U
  • WITWATERSRAND大学
  • など
まだまだアカデミアと協業が深められる領域は色々とありそう、ということで議論が重ねられています。

暗号分野などアカデミアが果たす役割は大きい一方で、まだまだ産業界とのギャップは大きいってことですね。



ギャップを埋めるために色々とコラボレーションを進めていくことになると思います。
実際SIDI Hubのイベントは毎回アカデミアからも参加者を招待しています。


と、いうところでケープタウンのレポートも終わりです。
明日はワシントンD.C.での会合です。時差があるのでレポートできるのは日本時間では明後日になるのかな。


2024年9月8日日曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(5)

こんにちは、富士榮です。

いよいよ今週はワシントンD.C.で今年3回目のSIDI Hubサミットが開催されます。

この次は10月の東京、そして最終ゴールであるG20会合に向けたリオデジャネイロ会合が11月に控えます。



そろそろケープタウン会合のレポートも読み終えておきたいところですので、進めていきます。今回は相互運用に向けた最低限の要求事項のセッションです。


まず、グローバルで相互運用性を確保するためには、もちろん世界中の全ての組織やシステムが統一された標準をサポートすることがベストなわけですが、現実はそう甘くはないわけです。そうなると、実装パターンは以下の3つに集約されることになる、とSIDI Hubでは仮説を立てています。

  • 発行者とリライングパーティが複数のプロトコルを実装する
  • プロトコル変換を行うレイヤーを用意する
  • プロキシを配置する
2番目と3番目はプロトコル変換をプロキシでやるケースもあるので実質は同じ形での実装となる可能性もありそうです。

セッションではペイメントと送金、教育、そして国境を超えた商取引の2つのユースケースにおける最低限の要求事項の分析をしています。

例えばペイメントと送金については以下のように分析されています。

ユースケース

  • 国境を超えた送金と受け取り
  • 不正を防止するために受取人のIDの確認
  • 受取人の口座の確認
  • 支払いからスタートするのか、受取要求からスタートするのか
  • 制裁チェック
  • KYC情報の収集、法規制への準拠
  • 税務情報
  • エクスローや取引仲介者
→たしかにこれらを国境や制度が異なる国家間で実施するのはアフリカに限らず非常に困難を伴います。例えば海外送金をする際に受取人がテロリストでないことをどうやって確認するのか?というのは非常に難しい問題になりそうですし、オンライン送金をする際のインターフェイスの問題もあります。もちろん古くはCHIPSのようなクリアリングハウスや現行のSWIFTなどが国際送金では存在するわけですが、日常的に国境を超えて商売をしている国々においてそれらのシステムは過剰とも言えるでしょう。

両サイドにデジタルIDシステムは導入されているのか?

  • 管轄領域に依存、あったとしても相互運用性がない場合が多い

技術的な展望

  • 複数の決済システムやデジタルIDシステムは必ずしも相互運用可能ではない
  • ほとんどの国がFATFのAML要件に準拠している
  • 多様なウォレットが存在、相互運用性がない
  • デジタル資産の取引には異なる規制要件があり、保証レベルも異なる

技術的な課題

  • 共通のトラストフレームワークが存在せず、発行者ごとに異なる保証レベルとなっている
  • 国家間、国内においても一貫性のない”標準”の利用
  • IDウォレットの鍵管理の問題
  • webやmobile OSなど複数のプラットフォームで利用できるクレデンシャルが必要

こうなってくると技術の相互運用性のみならずトラストフレームワークのマッピングなども合わせて進める必要がありますね。まぁ、この辺りは引き続き整理を続けているので東京会合の時にはある程度まとまってくるんじゃないかな?と思います。


2024年9月7日土曜日

ウォレットの将来に関する考察

こんにちは、富士榮です。

ウォレットの話が続きます。


Ott Sarv氏がLInkedInに投稿した記事ですがCC BY4.0のライセンスで公開されていますのでこちらで読んでいこうと思います。


なお、
  • 黄色マーカーは私によります
  • 赤字は私のコメントです

さて、早速みていきます。

意見:eIDAS 2.0を踏まえたオープンウォレットの将来に関する重要な考察

デジタルIDソリューションのエンド・ツー・エンド・アーキテクトとして、ヨーロッパ、東南アジア、インドと中国の間の地域、アフリカ大陸などの多様な地域で活動する中で、私はデジタルIDシステムの導入に伴う大きな影響と重大な課題を目の当たりにしてきました。その経験から、信頼はデジタルIDの基本要素であり、その信頼はしばしば政府の権限や規制監督と密接に結びついていることを学びました。最近、eIDAS 2.0 ドラフト仕様が発表され、規制の状況はデジタル ID フレームワークに対する 政府の管理を強化する方向にシフトしていることがますます明らかになっている。このシフトは、ステートレスでオープンソースのデジタル・ウォレットを作成することを目的とする OpenWallet Foundation のようなイニシアチブの将来について重大な問題を提起している。

→興味深いですね。政府などの機関に信頼の基点を置く必要が叫ばれつつもウォレットにアイデンティティ情報を格納して持ち運ぶ、というところにこれまで「自己主権」ということを叫んできた人たちにとっては矛盾を産み始めているのかもしれません。

規制の背景を理解する: デジタルアイデンティティにおける政府の役割

ヨーロッパの規制環境から東南アジアやアフリカのダイナミックなデジタル・ ランドスケープまで、私が働いてきたどの地域でも、デジタル ID ソリューションの信頼確立に おける政府の中心的役割は一貫した要因であった。インドや中国の国家 ID プログラムであろうと、アフリカの国家が支援するデジタル ID 枠組みであろうと、政府の関与は大量採用と信頼の達成に不可欠であった。
これらの経験は、デジタル ID システムが成功するためには、その妥当性とセキュリ ティを保証する権威ある情報源(通常は政府)が必要であるという重大な現実を浮き彫りにし ている。政府は個人データおよび公共の利益の主要な管理者と見なされるため、個人は政府によって支 持されるデジタル ID を信頼する。政府の承認または認識がなければ、多くのデジタル ID イニシアチブ は、その技術革新にかかわらず、牽引力を得るのに苦労する

→適用領域次第だろうとは思いますが、政府を含む権威のある情報ソースがデジタルアイデンティティに関する信頼の基点になりやすいのは事実だと思います。一方でこのことが先日のID Dayの話のように国家にネグレクトされた人たちが存在する要因の一つにもなっていることも事実です。やはり人類は「信頼」について深く考察すべき時期に来ているんじゃないかとおもます。

Open Walletの課題: eIDAS 2.0規制への対応

分散型デジタル・ウォレットというビジョンを掲げるOpen Wallet Foundationは、この文脈において大きな課題に直面している。eIDAS 2.0 仕様草案は、欧州連合内のデジタル ID は国家発行または国家承認でなければならず、こ れらの ID に対する信頼は本質的に政府の権威と結びついていると明言している。この枠組みは、デジタル ID システムに対する国の管理を強化する広範な傾向を反映し ている。
Open Walletにとって、この規制環境は重大なジレンマをもたらす。オープンソースの原則と包括的な開発へのコミットメントは賞賛に値するが、その現在のアプローチは、政府主導の枠組みへの準拠が不可欠なEUのような主要市場の規制の現実と一致しない可能性がある。国家が支援するデジタル・アイデンティティ・システムへの移行は、特に政府規制の遵守が義務付けられている法域では、ステートレス・モデルの余地が限られている可能性があることを示唆している。

→まさに先に書いた通りです。分散型でオープン性を掲げる一方で政府に信頼の基点を置かざるを得ない、というのは矛盾する可能性があります。

Open Wallet Foundationへの戦略的提言

このような課題を踏まえて、Open Wallet Foundationに対する戦略的提言をいくつか紹介します:
A. プロジェクトの戦略的方向性の再評価
進化する規制の状況を考えると、Open Wallet Foundationは現在のモデルの限界を認識する時かもしれない。eIDAS 2.0や同様のフレームワークで政府が支援するデジタルIDが世界的に重視されていることから、Open Walletは現在のプロジェクトを終了し、戦略を見直すことを検討すべきです。これは失敗を意味するのではなく、当初のビジョンが現在の状況では実現不可能かもしれないという現実的な認識を意味する。

→なかなか刺激的な提言ですね。行き過ぎな気はします。あくまで実装としてのOpen Walletと政府に信頼の基点を置くクレデンシャルは両立できるんじゃないのか?とも思います。

B. 政府間協力への軸足
Open Walletは、ステートレス・デジタル・ウォレット・モデルを継続する代わりに、政府との協力によって既存のデジタル ID フレームワークを強化する方向に軸足を移すことができる。これには、政府主導のデジタル ID イニシアチブを補完しサポートするオープンソースのツール、モジュール、または標準を開発することが含まれます。政府の要求と連携することで、オープンウォレットはイノベーションを促進しながら、グローバルなデジタルIDエコシステムにおいて関連性を保つことができます。

→これは一部でやってるんじゃないの?とも思いますが、ちゃんと政府の方向性とコンフリクトがない形を目指していきましょう、ってところですね。

C. イノベーションとコンプライアンスのバランスをとるハイブリッドモデルの提唱
OpenWallet は、その包括的なマルチステークホルダーアプローチと規制遵守の必要性のバランスをとるハイブリッドモデルを模索すべきです。eIDAS 2.0のような規制の遵守に焦点を当てた専門ワーキンググループを結成することは、オープン性へのコミットメントを維持しながら、OpenWalletのビジョンを法的要件と整合させるのに役立つでしょう。EUの規制当局や他の標準化団体と直接関わることで、貴重な洞察や指針が得られるだろう。

→まぁ、そうなりますよね。戦っても仕方ない話なので、前項にもある通り歩調を合わせるっていうことが必要になりそうです。今更ながらですがマルチステークホルダーといっている中の重要な一部として政府も入っている、ということです。

D. 主要ステークホルダーとの継続的な対話の促進
関連性を維持するために、Open Walletは規制当局、政策立案者、およびその他の主要な利害関係 者と継続的に対話する必要があります。協議に参加し、フィードバックを提供し、ベストプラクティスを共有することで、Open Walletはデジタル ID 標準の進化に貢献する貴重な存在として位置付けられ、新たな規制の動向に 応じて戦略を適応させることができます。

→前項までと一緒ですね。ある程度歩調は合わせていると思いますが、もっと明確にやっていくべきなのかもしれません。

デジタルアイデンティティ戦略の再編

エンド・ツー・エンドのデジタル・アイデンティティの専門家として、私はOpen Wallet Foundationとその他の関係者に対し、進化する規制の状況に照らして現在のアプローチを批判的に評価するよう強く求めます。デジタルIDの信頼の礎としての政府の役割を認識し、オープンソースのイノベーションを国家主導のフレームワークと連携させる新たな方法を模索することが不可欠です。
私は、デジタル ID コミュニティに対し、政府および規制当局との協力関係を強化し、革新的で、準拠 性が高く、安全で、広く受け入れられるデジタル ID ソリューションを開発するための共通基盤を見出すよう呼びかける。

→良い投げ込みですね。こういうことを関係者がちゃんと意識をする良いきっかけになると良いと思います。これはもちろん日本においても、です。

デジタル・アイデンティティの現実的な道筋

デジタル ID の将来は、革新、信頼、および規制の間の微妙なバランスによって形成される。eIDAS 2.0 ドラフト仕様が示すように、デジタル ID の信頼は依然として政府の権限と監視と密接に関係 している。Open Walletのようなイニシアチブにとって、この現実は戦略的な再評価を必要とする。
現在のプロジェクトを終了し、規制の枠組みに沿ったモデルに軸足を移すことで、Open Walletはデジタル ID エコシステムに有意義な貢献を続けることができる。このアプローチにより、デジタル ID ソリューションは、規制の期待を尊重しながらも、多様な地域の ユーザーのニーズを満たし、インパクトがあり、コンプライアンスがあり、世界的に適切なものとなる。

→Open Wallet Foundationがどうしていくべきか、については必要以上にここでは触れませんが、技術だけではダメで、規制、そしてそもそも「信頼」はどのようにして醸成されるのか?を考えていけると良いと思います。(これはウォレットに限らず全てのデジタルIDシステムについて言えることですが)


ということで興味深く読ませていただきました。

2024年9月6日金曜日

”ウォレット”をどこまで意識する必要があるのか?

こんにちは、富士榮です。

みんな大好き”ウォレット”ですが、Verifiable CredentialsやmDocについて語る際に”ウォレット”を持ち出してしまうと、その部分の抽象化レベルだけ他と違ってしまって急に訳がわからない話になってしまうなぁ、、という悩みがあります。



みなさん”ウォレット”と聞くと「スマホにインストールされたネイティブアプリ」を想起してしまうからかもしれません。本来はウォレットの実装方式ではなく、クレデンシャルの保有者(Holder)に着目しないといけないんですけどね。

※つまり、「Issuer-Holder-Verifier」という3パーティモデル(IHVモデル)の話をしているのに、途中から「Issuer-Wallet-Verifier」というレベル感が合わない話にすり替わってしまうという話です。

この悩みにも関連しますが、我らがアンディー(Andrew Hindle)が良いコラムを書いていたので紹介しておきましょう。

Identity Wallets as Infrastructure - Andrew Hindle


一言でまとめると
ウォレットを機能として考えるのではなくインフラコンポーネントとして考えましょう。最終的にウォレット・プロバイダーを選択することなく携帯電話事業者などから提供されるデフォルトのウォレットを使うことになるでしょう
という話です。

私もたまに「ウォレットの乱立って今後どうなるの?」って聞かれますが、最近は「ウォレットとして独立したアプリケーションとして捉える時代は終わるんじゃない?もっと上位サービスの中に自然と存在している状態になって見えなくなるっていうのがユーザーにとって自然なのでは?」なんて言っていたりもしますが、「乱立から集約へ」というAndrewの意見と「乱立から不可視へ」という私の意見は異なる点もありますが、共通UXとして自然に溶け込んでいくことにならないと普及しない、という点については一致していると思います。


雑にGoogle翻訳したものを貼っておきます。

インフラストラクチャとしてのアイデンティティウォレット

デジタル ID ウォレットの世界は、これからさらに面白くなりそうです。欧州連合はEIDAS v2を展開し、モバイル運転免許証の採用は米国全土で加速しています (最近の例としては、ニューヨークとカリフォルニア)。そして、これらすべてをサポートする重要な標準 (とりわけ、ISO 18013-5や検証可能な資格情報など) はますます確立されつつあります。今後 3 ~ 5 年以内に、インターネット ユーザーの大半が少なくとも一部の資格情報をデジタル ID ウォレット (以下、単に「ウォレット」) に保存するようになることはほぼ間違いないでしょう

このような普及により、これらのウォレットをエンドユーザーのアプリケーションやサービスとして考えるのをやめ、「インフラストラクチャ」として考え始める時期が来ています。

ウォレットの再考: サービスからインフラへ

オンライン サービス (およびアプリ) は本質的に競争的です。個人用タスク管理システムを例に挙げてみましょう。市場には数多くのシステムがあります。OmniFocus、Amazing Marvin、Remember the Milk、Todoist、Toodleoo などです。中には、Apple の世界の「リマインダー」のように、オペレーティング システムやメーカーのエコシステムに組み込まれているものもあります。

それはそれで問題ありません。基本的な機能はほぼ同じです (タスクの作成、タスクの完了チェック)。ただし、システムによって提供される機能は異なり、それが自分にとって役立つかどうか、また、お金を払いたいと思うかどうかはわかりません。タスクのタグ付けなどの一部の機能は、1 社または 2 社のベンダーの USP として始まりましたが、需要が高まり、今ではすべてのタスク管理ツールの必須機能となっています。

ウォレットが他のアプリと異なる理由

では、なぜウォレットが違う必要があるのか​​、と疑問に思うかもしれません。おそらく、物理的な財布と同じように、誰もが欲しがるわけではない機能をウォレットに求めることになるでしょう。例: 私は仕事で年に数回米国に行きます。米国は英国よりもはるかに現金中心の経済です。英国では、今では現金を持ち歩くことはほとんどありません (自転車に乗っているときは別ですが、そのときは緊急時用に 20 ポンド紙幣を持っています)。米国では持ち歩きます。米ドル紙幣は英ポンド紙幣よりも長いので困ります。そのため、私の財布には、英国で販売されている多くの財布とは異なる寸法が必要です。言い換えれば、物理的な財布には米ドルと GDP の両方をネイティブでサポートする必要があるのです。

デジタル ID ウォレットの限界

では、デジタル ID ウォレットとの違いは何でしょうか?

簡単です。もし物理的な財布が、使用したい通貨をネイティブにサポートしていない場合は、回避策を簡単に実装できます。紙幣を別の方法で折りたたんで、収まるようにすることができます。もちろん完璧ではありませんが、うまくいきます。

しかし、これは私のデジタル ID ウォレットには当てはまりません。たとえば、ある国家が、自国の認証情報に有効なウォレットは特別な国家ウォレットのみであると決定し、そのウォレットが他のすべての人が頼りにしている検証可能な認証情報の一部の機能をサポートしていない場合 (または、更新が十分に速くない場合など)、私は困ってしまいます。私の唯一の選択肢は 2 つの別々のウォレットを実行することですが、その状況は急速に悪化する可能性があります。

「でも、これは先進国の国際的なジェットセッターが抱える問題のように思える」とあなたは言うでしょう。確かに、他の機関が同様の道を歩み始めたと想像してみてください。スーパーマーケットのポイント制度に参加するのですか? ウォレットが必要です! 銀行口座を開設するのですか? ウォレットが必要です! 学歴、専門資格、または福利厚生の資格が必要ですか? はい、ウォレットがさらに必要になります。特定の資格情報がどのウォレットに入っているか思い出せなくなるのも時間の問題です。また、デバイスを紛失した場合(紛失した場合)、またはアップグレード時に使い捨てウォレットの一部を転送し忘れた場合の資格情報回復プロセスは、考えたくもありません。ウォレットの急増は採用を妨げるでしょう。

インフラとしてのウォレットの力

企業もソフトウェアベンダーも、ウォレットを機能として考えるのをやめる必要がありますウォレットは実際にはインフラストラクチャ コンポーネントです。この文脈で「インフラストラクチャ」とはどういう意味でしょうか。鉄道や電力網を考えてみてください。少なくとも、それらが何を行うか、どのように機能するかという基本的な点については、誰もが同意しています。それらは大規模で、(文脈上) 広く利用可能です。そして、本当の価値は鉄道や電力網自体からではなく、それらの上に構築できるサービスから生まれます。言い換えると、それらは本質的に一貫性があり、相互運用性があり、遍在的で、基礎的なものです。または、Webster の定義によれば、「下部構造または基礎となる基盤。特に、コミュニティ、国家などの継続と成長が依存する基本的な設備と施設」です。

では、ウォレットについて考えてみましょう。ウォレットが利用可能になる可能性が最も高い最終段階は、ほとんどの人 (消費者、従業員、市民など) が携帯電話プロバイダーからウォレットを入手することだと私は考えています彼らは、入手するウォレットに基づいてプロバイダーを選択することはなく、そのプロバイダーのデフォルトのウォレットを単に使用します。なぜなら、彼らはウォレット自体の機能にはあまり関心がないからです。彼らは、ウォレットが使いやすく、信頼性が高く、安全に動作し、広く受け入れられ、それを使用してさまざまなデジタル、物理、ハイブリッド サービスにアクセスできることを望んでいるだけです。

この結果は、実は私たち全員にとっての利益です。個人のデジタル ID は、使いやすさ、アクセシビリティ、インクルージョン、顧客維持、セキュリティ、プライバシーなど、デジタル環境のさまざまな領域に革命をもたらします。その結果、企業や、地方レベルと国家レベルの公共サービスを含むその他の大規模組織に、顧客獲得/維持の向上、セキュリティとプライバシーの体制の改善、コスト削減などのメリットがもたらされます。

アイデンティティのための新しいアーキテクチャ

さらに、ウォレットをデジタル ID インフラストラクチャの一部として考えると、興味深く重要な新しいアーキテクチャがいくつか生まれます。ウォレットはシグナルを提供できます。ウォレットは「カウンセラー」になることができます。当社のエンタープライズ展開では、ウォレットからの入力を積極的に取得したり、それに応答したりできます。ウォレットは継続的な ID ランドスケープの一部になります。

好むと好まざるとにかかわらず、ウォレットはインフラストラクチャです。そのインフラストラクチャをできるだけシンプルで、誰にとっても便利なものにしましょう。

2024年9月5日木曜日

初回Vittorio Bertocciアワードの受賞者が決まったみたいです

こんにちは、富士榮です。

4月にこちらでも書いたVittorio Bertocciアワードですが受賞者が決まったみたいです。

Celebrating Excellence: Meet the first Vittorio Bertocci Award Winners!
相変わらずのこの写真(笑)。愉快なヤツでした


おさらいですがこのアワードは故Vittorio Bertocciの功績を継承すべくDIAF(Digital Identity Advanced Foundation)が設定しているアワードです。

今回受賞が決まったのはTrack1と2の受賞者でTrack1の受賞者の方は10月末のInternet Identity Workshop(IIW)でお会いできそうです。

受賞したのは以下の方々
  • Erick Domingues(Track 1)
    • ブラジルでRaidiamのプログラム・マネージャーをやっている人
    • FAPIの実装とかやっている方みたいですね
  • Frederico Schardong(Track 2)
    • ブラジルのサンタ・カタリナ大学でコンピューターサイエンスの研究をしている人
    • デジタルアイデンティティ、自己主権型アイデンティティなどの研究をしているみたいです
  • Jen Schreiber(Track 2)
    • Women Who Codeでエリアディレクターをやっている人
    • デジタルアイデンティティの実装を大規模サービスでやっている人っぽい

日本人も応募すればいいのになぁ。。

2024年9月4日水曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(4)

こんにちは、富士榮です。

引き続きSIDI Hubのケープタウン会合のレポートをよんでいきましょう。



今回はガバナンスです。

Governance - 報告者:Elizabeth Garber

ガバナンスに関してはGail Hodgesが担当しました。SIDI Hubの内部の各活動をローカルガバメントと連携・調整しつつ、それぞれのワークストリームへマッピングしていく、ということをやっています。

どうしても国際的な枠組みで動こうとするとこのような整理をしないとごちゃごちゃになっちゃうんでしょうね。



その他にも、

  • ユースケースの優先順位づけへのローカルの意見を反映しやすい仕組みの必要性
  • 国ごとの個別のデータフィールドを除けば技術的なアラインメントはほぼほぼ行けそう
  • エコシステムのガバナンスも考えないといけない
  • アーキテクチャ上の決定はローカライズされるべきである(特にオープンソースにすべきところとローカル単位でクローズにするかどうかを決められる部分の決定ができるようにするなど)
  • 既存のImplementationが相互運用性があるのか確認した方がよいのでは
など、持続可能な形で運用していくための意見だしが行われたようです。



あとは、ガバナンスやオペレーションを設計する上で考慮すべき事項についても話あわれたようです。

  • マルチ言語を含むスキーマの設計(どうしても英語がプライマリになってしまいがち)
  • Relying Partyの登録
  • Issuing AuthorityのDiscovery
  • vLEI的(そのものとは言っていない)な暗号学的に検証可能な法人エンティティを識別するための情報
  • x.509とOpenID Federationの違いなどの技術的な相違点
  • OSSのコードと認証の仕組み
  • OECD、G20などとのMOUの話
などなど。やはりグローバルで相互運用性を担保しつつ持続可能にするには考えるべきことはいっぱいです。一歩一歩整理をつけていっている途中ですがGailお疲れ様です・・・


ということで次回は最低限の要求事項のまとめのセッションです。

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(3)

こんにちは、富士榮です。

引き続きSIDI Hubケープタウン会合のイベントレポートを見ていきます。今回はトラストフレームワークのセッションに関するレポートです。


早速見ていきましょう。

Trust Framework - 報告者:Stephanie de Labriolle

次はトラストフレームワークのワークストリームです。このセッションはElizabeth GarberとOpen Identity ExchangeのNick Mothershaw(リモート参加)が担当しています。

Stephanieのレポートによると参加者の半数くらいしかトラストフレームワークについて馴染みがなかったようですが、各国の法律やルールなどはすでにトラストフレームワークの主要な要素を持っているためElizabethからその辺りは説明がされたようです。

OIXのこの辺りの資料で説明したとのことです。

セッション中ではトラストフレームワークの利点の例として以下が挙げられたとのことです。

  • As a state, I want to flawlessly recognize an individual and know they are unique so that I can offer the right access and services
    • a Trust Framework defines requirements for Identity Proofing and Levels of Assurance
  • 国家としては、個人を完璧に認識し、その人が一意であることを知って、適切なアクセスやサービスを提供できるようにしたい。
    • トラストフレームワークは、アイデンティティの証明と保証レベルの要件を定義する
  • As a user, I want to know that my private information is safe so that I can avoid scams, identity theft, and harms in the digital and physical worlds
    • a Trust Framework defines requirements for Privacy, Security, Relying Parties/Verifier Obligations, Data Management, etc.
  • ユーザーとして、私は自分の個人情報が安全であることを知りたい。そうすれば、詐欺、個人情報の盗難、デジタルおよび物理的な世界での危害を避けることができる。
    • トラストフレームワークは、プライバシー、セキュリティ、依拠当事者/検証者の義務、データ管理などの要件を定義する
  • As an Identity Issuer I want to know that the information is going to a trustworthy place so that I can protect users’ data
    • a Trust Framework defines requirements for Relying Party/Verifier Obligations, and Trust Registry protocols
  • ID 発行者として、情報が信頼できる場所に送られることを知り、ユーザのデータを保護したい。
    • トラスト・フレームワークは、依拠当事者/検証者の義務、およびトラスト・レジストリのプロトコルの要件を定義する
  • As a user, I want to know that I can safely use my credential anywhere to prove who I am, what I can do, and to access resources
    • the Trust Framework defines requirements for Credential Standards
  • ユーザとして、自分が誰であるか、何ができるかを証明し、リソースにアクセスするために、自分のクレデンシャルをどこででも安全に使用できることを知りたい。
    • トラスト・フレームワークは、クレデンシャル標準の要件を定義する

そして、Open Identity Exchange(OIX)は以下の8つのトラストフレームワークの分析を実施してきました。

日本は???
安心してください。その後OpenIDファウンデーションジャパンの有志でちゃんと進めてくれています。次の日本会合ではその辺りも発表があると思います。

なお、OIXの分析の結果、OIXが「デジタルIDトラストフレームワークのDNA」として定義している「一般的なポリシー・ルール」と「アイデンティティ保証に関するポリシー」の2つの主要テーマと、関連するサブテーマが設定されています。

ここでも小グループに分かれてディスカッションを行い、トラストフレームワークの要素を用いて各国の状況の分析を行っています。
詳細はレポートを見ていただければと思いますが、こんな感じで分析したようです。


また、トラストフレームワークのベネフィットについても議論が行われました。
結果、以下のようなまとめが行われたとのことです。
この分析のベネフィット
  • 相互運用性の推進
  • データ保護とセキュリティの促進
  • コストの削減
  • 包摂
  • デジタル経済の発展
  • 官民サービスの提供への志向
一方でチャレンジとして以下も挙げられています。
  • ポリシーをどのように運用していくか
  • デジタル化をどのように進めるか
  • 人的要因・サイロ化・リーダーシップの課題への対応
  • インフラの不足
  • スキル不足
  • 地理的な問題、規模、セキュリティ上の問題
そして、何が足りないのか?についても議論が行われ、「専門家のアドバイスの中立性をどのように担保・確認するのか?」などについても語られたようです。どうやら一部の国の政府は外部有識者へのアドバイスを求める際、公平性や中立性に課題がある、と考えるケースもあるようです。


なお、トラストフレームワークの議論についてもUNHCRとの関連で議論が行われました。
Meanwhile, non-jurisdictions focused on how to support UNHCR, which has the challenge of serving 130M current refugees that are part of the UNHCR system and under their protection. They have integrations with about 7 strategic partners including refugee origin and destination countries, and they need to have 50-60 more integrations to national civil registry systems. Some users entering the system will have documents from their origin country and the origin country system of record may be accessible to check data against and people may have mobile devices (e.g. Ukraine), while other individuals may not have mobile devices and may be stateless or originate from failed states where records are not available.

一方、非管轄当局は、UNHCRをどのように支援するかに焦点を当てた。UNHCRは、UNHCRのシステムの一部であり、その保護の下にある1億3,000万人の現在の難民にサービスを提供するという課題を抱えている。UNHCRは、難民の出身国や目的地を含む約7の戦略的パートナーと統合しており、さらに50~60の国別市民登録システムとの統合が必要である。システムに入る利用者の中には、出身国の文書を持っていて、データを照合するために出身国の記録システムにアクセスできたり、携帯端末を持っている人(ウクライナなど)がいる一方で、携帯端末を持っておらず、無国籍であったり、記録が利用できない破綻国家出身であったりする人もいる。 

数多くの難民を支援するUNHCRでは多くの国のシステムとの相互運用性を実現する必要がありそうです。しかしながら難民の状況はさまざまなので国民IDシステムへのアクセスができない場合などもあるので非常に難しい舵取りが求められている状態のようです。

またウクライナの状況を例としてUNHCRに何が求められるのか?についても議論が行われ、難民登録やデジタル技術による解決なども話題に上ったようです。


ということでトラストフレームワークのセッションも終わりです。

次回はガバナンスです。




 





2024年9月3日火曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(2)

こんにちは、富士榮です。

いよいよ来週に迫ったSIDI HubワシントンD.C.会合および来月の東京会合に向けて体(頭)を温めていきたいと思います。



前回は概要とまとめを見てきました。

https://idmlab.eidentity.jp/2024/09/sidi-hub.html


今回は各セッションを見てみたいと思います。

SIDI Summit Introduction - 報告者:Elizabeth Garber

まずはElizabethから、SIAのStephanieが担当した最初のセッションに関して報告されています。

SIDI is delighted to be at ID4Africa because the concept was born at an ID4Africa discussion about the development of national identity schemes with vastly different architectures – centralized, decentralized – and different models of governance. The SIDI organizers sought to promote discussions of interoperability between those systems to ensure that no nations are left behind as interoperability is established across others.

SIDI は ID4Africa に参加できることを喜ばしく思っている。というのも、このコンセプトは、ID4Africa のディスカッションで、中央集権型、地方分権型など、アーキテクチャが大きく異なり、統治モデルも異なる国家 ID スキームの開発について議論する中で生まれたからである。SIDI の主催者は、相互運用性が他国間で確立される中で、取り残される国がないようにするため、これらのシステム間の相互運用性の議論を促進しようとした。

ケープタウン開催ということもありID4Africaとの協業について触れられています。前回も触れましたが、アフリカという地域特性、統治モデル、国民IDのスキームの中でどのように相互運用性を実現するのかは非常に重要なことだと思われます。そしてこのテーマはUNDP(国連開発プログラム)の関心ごとの一つでもありますし、日本政府(外務省)からUNDPへのファンドが拠出されている分野でもあります。この辺りは日本からもっと支援ができると良いと思います。

また、同時にIntroductionセッションということもあり、SIDI Hubの戦略について紹介されています。

SIDI Hubの目的・何をして何をしないか、の紹介。


他にも5つのメインのワークストリームである、チャンピオンユースケースの探索、トラストフレームワークのマッピング、相互運用性のための最低限の要求事項、成功メトリクスの設定、ガバナンスについて紹介され、その中でもケープタウン会合のアジェンダでは以下の4つの点について重点が置かれているということについても紹介されています。

  1. Identifying Champion Use Cases
  2. Preliminary Trust Framework Analysis of African models
  3. Minimum Technical Requirements for Interoperability
  4. Governance Approach + Metrics of Success (Two workstreams operating as one for now)

このセッションの最後でStephanieはSIDI HubのコンセプトについてSIDI Hubの戦略の中から以下のように締め括っています。
The concept is that we need a blueprint for how we build digital identity ecosystems within and across jurisdictions that will produce interoperable digital identity credentials by default. Achieving those outcomes will require measurement and metrics, policies, interoperable open standards, open source code (for many jurisdictions) and scientific analysis (e.g. liveness and presentation attack detection).

 このコンセプトは、デフォルトで相互運用可能なデジタル ID クレデンシャルを生成する、 管轄内および管轄をまたがるデジタル ID エコシステムを構築する方法の青写真が必要であるとい うものである。このような成果を達成するには、測定および測定基準、政策、相互運用可能なオ ープン・スタンダード、オープン・ソース・コード(多くの司法管轄権向け)、および科学的分析 (例えば、生存性およびプレゼンテーション攻撃の検出)が必要である。


Use Case Session Part 1 - 報告者:Mark Haine

セッションの冒頭で語られた以下の宣言はさすが大陸文化って感じです。
"People need to move" was a clear opening statement. This is part of their nature. Often, this movement is across a border – a sentiment that resonated across representatives from the African continent, where many communities live and trade across borders. When life’s basic functions exist cross-border, people need ways to identify one another.

「人は動かなければならない」。これは彼らの性質の一部なのだ。多くのコミュニティが国境を越えて生活し、貿易を行っているアフリカ大陸の代表者たちは、この思いに共鳴した。生活の基本的な機能が国境を越えて存在する場合、人々は互いを識別する方法を必要とする

前回のポストにも書きましたが国境とコミュニティの境目が異なる(オーバーラップする)のは地続きの大陸の特徴ですね。そして、その環境下でお互いを識別するための方法は非常に大切です。

The room mentioned ICAO and the passport standard, but the room agreed that there are many other use cases than travel across borders. In turn, identity solutions need to fit those use cases and there are many variations and different issues to consider. By looking at this we might find a working framework.

会場ではICAOとパスポート標準について言及されたが、国境を越えた旅行以外にも多くのユースケースがあることに同意した。そのため、ID ソリューションはそれらのユースケースに適合する必要があり、考慮すべき多くのバリエーションやさまざまな問題がある。これを検討することで、作業フレームワークが見つかるかもしれない。

 ちょっと興味深いですね。国境を超えた旅行以外でパスポートが出てくることがあるんですね。

Participants wanted to learn from the work of EIDAS but not assume it was a better solution than one emerging from African implementation: “We see the work on EIDAS 2 - but there was EIDAS 1 - what went wrong with that? We want to hear about that and learn from it both what went well and what did not go well.”

参加者は、EIDASの作業から学びたいが、それがアフリカでの実施から生まれたものよりも優れた解決策であると決めつけないことを望んでいた: 「私たちはEIDAS 2の作業を見ているが、EIDAS 1があった。私たちはEIDAS 2の作業を見ますが、EIDAS 1があり、あれは何が問題だったのでしょうか? 

 このアプローチは日本も見習わないといけませんね。EUがeIDAS2.0で先行しているから単純に自分たちよりも優れいているはずだ、という短絡が起きないようにしないといけません。そもそも2.0という段階で1.0があったわけで、EUはEUでTry and Errorで見直しを重ねてきたはずなので、そのプロセスの方を見習うべきでしょう。


Campion Use Cases

このワークストリームではチャンピオンユースケースの特定とフレームワークを使って優先順位づけを行うことを目的としています。

 こんな感じで優先順位づけが行われてきています。
  • パリ会合のテーマを取り上げ、具体的なユーザーストーリーを書く
  • W3C credentials ワーキンググループで特定されたユースケースを追加
  • EU ウォレットのユースケースで特定されたユースケースを追加
  • EU + US TTP の二国間分析で特定されたユースケースを追加
ケープタウン会合でのゴールは上記に追加で会合参加者から追加のユースケースを見出すことにあります。
今回のケープタウンでは「Cross-border trade(国境を超えた貿易)」が追加されました。このユースケースはアフリカ大陸内の国境近くのコミュニティに属して国境を超えた商取引を行なっている個人に特に深く関連しています。こういうユースケースは日本やアメリカではあまり出てこないユースケースだと思うのでこういう形でグローバルツアーをやるのは非常に意義深いことですね。

そして、優先順位づけを行うための条件としては以下が挙げられています。
- Who is the use case about?
- What is the cross border interoperability challenge/driver?
- What is the scale of impact, what is the economic analysis of he use case?
- What is the impact on well-being. What is the pain that can be solved, the human benefit that is material?
- We need to identify data inputs and outputs
- Does SIDI Hub have adequate expertise to address the use case effectively?
- Are there balanced incentives for all participants in the ecosystem?
- Is the use case polarizing in a way that we should deprioritize it, or prioritize it?
- Is the use case global or regional?
- Are there suitable mechanisms to establish trust amongst the ecosystem participants
- ユースケースは誰のためのものか?
- 国境を越えた相互運用性の課題/推進要因は何か?
- インパクトの規模、ユースケースの経済分析は?
- 幸福への影響は何か。解決できる痛みは何か、物質的な人的利益は何か。
- データのインプットとアウトプットを特定する必要がある
- SIDIハブはユースケースに効果的に対応するための十分な専門知識を持っているか?
- エコシステム内のすべての参加者にバランスの取れたインセンティブがあるか?
- ユースケースは、私たちが優先順位を下げるべきか、優先順位をつけるべきかの両極端なものか?
- ユースケースはグローバルなものか、地域的なものか?
- エコシステム参加者間の信頼を確立するための適切なメカニズムはあるか?
また、ケープタウン会合では上記に追加で以下のクライテリアも追加されました。
- What are the benefits of focusing on this, from a government perspective

- 政府から見て、この点に焦点を当てることのメリットは何か? 

興味深いですね。文化圏やコミュニティに後付けで国境を作った国々において近代国家と文化圏の折り合いの付け方についてどうなっていくのかは非常に難しくもあり深いテーマだと思います。

その後、このセッションではユースケースの一覧を作り取り組みの意義について投票を行っています。(これはパリでもベルリンでも行われたSIDI Hubのやり方ですね)

こちらがユースケースのリストと投票結果です。(投票数が多いものが来場者が有用と思ったものです)


この結果として国境を超えた貿易が取り上げられた、ということですね。ただ、他にも銀行口座の解説や旅行は多くの得票数でした。

なお、実際の会合の場では、小さなグループに分かれて各ユースケースについて深掘りをしていく、ということが行われます。(これはベルリンでも行われました)

そしてそれぞれの議論の内容を発表して全体で追加の議論を行います。

一例はこちらです。(全部は転載できないので、詳しくはレポートを見てください)


なお、当日は難民のユースケースについて追加で深掘り議論が行われたようです。レポートにはAdditional Notesとして記載されています。

ICAO have a new technology session scheduled in Copenhagen in September. Refugees are still not really catered for despite positive statements.

The refugee community have specific requirements and the cost of implementation in part due to special requirements is high. In some cases a person might be crossing a border from a

state that has failed for them or failed entirely. In this scenario there will be no records available and no trust anchor. It might be that the origin state is the enemy of some or all of the people.

There is a continuous process that involves the identity of a person and the status of a person but in a refugee scenario there are a sequence of events that include:

1. feed the person

2. provide schooling and healthcare

3. enable them to work

4. Protect their human rights

5. Resettlement

ICAOは9月にコペンハーゲンで新技術セッションを予定している。積極的な発言にもかかわらず、難民への対応はまだ十分ではない。

難民コミュニティには特別な要求があり、特別な要求のために一部実施コストが高い。場合によっては、その国から国境を越えてくるかもしれない。このシナリオでは、利用可能な記録はなく、トラスト・アンカーもない。出身国が一部またはすべての人々にとって敵である可能性もある

人の身元と身分に関わる継続的なプロセスがあるが、難民のシナリオでは以下のような一連のイベントがある:

1. その人を養う

2. 学校教育と医療を提供する

3. 彼らが働けるようにする

4. 人権の保護

5. 再定住 

昨日のID Dayのポストにも書きましたが、国民IDシステムから外れてしまった人たちをどうやって扱うのかは非常に難しい話である一方でデジタル技術にフォーカスした非営利団体の活躍する分野なんだと思います。

最後にユースケースのワークストリームの次のステップについてまとめられて本セッションは終了しています。

There were several conversations about further steps in refining use cases:

- Separating into the 'build' phase and the 'use' phase.

- How to integrate

- Trust framework interoperability

- Understand all use cases will take time! Time to persuade and decide, time to implement and time for adoption by citizens

- We might also group use cases into themes if we can.

- Understand relevant regional groups that collaborate with a common and specific goal but it still takes time

- We should add consideration of sustainability over time.

- How do we mitigate risk relating to unstable governments.

- There is also the discussion of the status of a person over time to be managed

- Once we have the use cases they will be used to help illuminate the policy and technical work.

ユースケースを洗練させるためのさらなるステップについて、いくつかの会話が交わされた:

- 構築」フェーズと「使用」フェーズに分ける

- どのように統合するか

- 信頼フレームワークの相互運用性

- すべてのユースケースを理解するには時間がかかる!説得し決定する時間、実施する時間、市民が採用する時間

- 可能であれば、ユースケースをテーマにグループ分けすることも考えられる

- 共通の具体的な目標を持って協力する関連する地域グループを理解する

- 長期的な持続可能性を考慮すべきである

- 不安定な政府に関するリスクをどのように軽減するか

- また、時間経過に伴う個人のステータスを管理する議論もある
- ユースケースが出来上がれば、ポリシーや技術的の作業に役立てることができる。

なかなか固まるまでには時間がかかりますし、キリがない議論、よく言えば継続的に議論し推進することで世界を良くすることができる無限の可能性がある話ですね。


ということで今回はここまでです。

次回はトラストフレームワークについての議論についてみていこうと思います。





2024年9月2日月曜日

もうすぐID Day、法的身分証明のありがたみを感じる日

こんにちは、富士榮です。

あっという間に9月に入ってしまいましたが、今月9月16日はID Dayです。

そう、勘がいい人はわかると思いますが、16.9です。SDGsです。

外務省のページで解説されているSDGsの16は「平和と公正をすべての人に」です。

そして16.9は「2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する」となっています。




ID Dayに話を戻すと、ID4Africaを中心に、OpenID Foundationを含め多くの団体(営利・非営利を問わず)やNGOなどがこのアクティビティをサポートしています。(支援団体のカテゴリはDevelopment, Government, NGO & Civil Society, Commercialの4つに分かれています)

こちらにパートナーとなっている団体の一覧があります。

活動の目的は以下の通りです。
ID Day aims to raise awareness about the sobering reality that an estimated 850 million people worldwide, particularly in Africa, still lack any form of official identification – underscoring the ongoing imperative to achieve total inclusion. The campaign reminds those fortunate enough to possess identification, of the critical need to actively secure their identities against theft and safeguard their privacy. Furthermore, ID Day presents an opportunity for the identified to reflect on how their legal identity empowers and facilitates innumerable aspects of their lives.
In general, ID Day aims to spur dialogue, drive action, and uphold every human's fundamental right to legal identity. It is a rallying call for the world to ensure no individual remains invisible or vulnerable due to lack of identification, or that the identified do not fall victim to irresponsible management of their identity.
IDデーの目的は、世界中で、特にアフリカで、推定8億5千万人の人々がいまだに公的な身分証明書を所持していないという深刻な現実に対する認識を高めることである。このキャンペーンは、幸運にも身分証明書を所持している人々に、盗難から積極的に身元を守り、プライバシーを保護することの重要性を喚起する。さらに、IDデーは被認証者に対し、合法的な身分証明書がいかに彼らの生活の無数の側面を強化し、促進するかを考える機会を提供する
一般的に、IDデーは対話を促し、行動を促進し、法的なIDに対するすべての人間の基本的権利を支持することを目的としている。IDデーは、IDがないために個人が見えないまま、あるいは脆弱なままであることがないように、また、IDを持つ人々が無責任なID管理の犠牲にならないように、世界に呼びかけるものである。
私たちはKYCや本人確認など、当然のように話をしているわけですが、法的な身分証明書を持っていない人が多く存在する、ということをこの機会にリマインドするとともに、自らのアイデンティティを保護することの大切さについて認識を新たにするきっかけとなることがこの活動の意義となると思います。

実は日本においても無国籍者は存在しています。
難民支援で有名なUNHCRの発表だと日本にも2020年6月の段階で645人の無国籍者が登録されている、とされています。
Q.日本にも無国籍者はいるのでしょうか?
2020年6月の時点で出入国在留管理庁には645人が無国籍者として登録されていますが、在留資格のある人のみを対象としていますし、また、厳密な国籍の認定に基づくものではないとされています。国籍がある人が含まれている可能性、自分が無国籍であることを知らない人や在留資格が無い人が入っていない可能性等があります。
ただ、この数字は不思議なことに「登録されている」数なので、当然のことながら氷山の一角です。UNHCRがメインで扱っている移民や難民に加えて、日本国内でもいろいろな事情があり戸籍が取得できない人もいるわけです。
東京都人権啓発センターの資料には
 「実数の把握はできないものの、『どこの国籍も与えられていない無国籍児は日本に2万人くらいいてもおかしくはない』と危惧する研究者もいます」
なんてことも書かれていますし、さらに日本国籍に関しては井戸まさえ先生が書かれた「日本の無戸籍者」には戸籍が取得できない人たちの様々な事情について詳細に解説されています。(ちょっと情報が古いのと法改正で少し改善されたところもありますが、まだまだ課題は残っています)

意外と人ごとじゃないんですよね。
マイナンバー制度で管理されることに脊髄反射的にアレルギーを示す前に世界と日本の現状と引き起こされてきた悲しい事件なども理解しておくことも大切だと思います。

2024年9月1日日曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(1)

こんにちは、富士榮です。

前回紹介した通りSIDI Hubのイベントレポートが公開されているのでみていきます。

今回はケープタウンのレポートをみていきましょう。



前段部分はSIDI Hubの概要の話なのでケープタウンのイベントレポートの部分だけ見れば良さそうです。

まずは概要から。

SIDI Hub Cape Town was held on May 20, 2024, before ID4Africa. Throughout the day, there were 40+ attending with roughly 30% representing government, 30% representing the research community, 25% representing the organizing non-profits, and 15% representing transnational organizations. The focus was on eliciting feedback from the representatives from African nations and intergovernmental bodies in attendance. In turn, this feedback will serve as inputs to the SIDI Workstreams. In particular, the agenda was designed to generate insights about:

- Use Cases that are particularly pertinent to the African continent and its communities

- The role that Trust Frameworks and Trust Framework analysis could play in supporting their national or, in the case of refugees, trans-national identity systems

In the mid-afternoon, representatives from African identity systems left for another event and the agenda shifted to emphasize academic questions, since there was also heavy representation from researchers. While section Two of this report includes the detailed Rapporteurs notes for the full day event, key take-aways are highlighted below.

2024年5月20日、ID4Africaの前にSIDI Hub Cape Townが開催された。一日を通して40人以上が参加し、およそ30%が政府代表、30%が研究コミュニティ代表、25%が組織的な非営利団体代表、15%が多国籍組織代表だった。焦点は、出席したアフリカ諸国や政府間機関の代表からフィードバックを引き出すことだった。このフィードバックがSIDIワークストリームへのインプットとなる。特に、アジェンダは以下のような洞察を生み出すようデザインされた:

- アフリカ大陸とそのコミュニティにとって特に適切なユースケース

- トラスト・フレームワークとトラスト・フレームワーク分析が、国内または難民の場合、国を超えた ID システムを支援する上で果たしうる役割

午後の半ばになると、アフリカのアイデンティティ・システムの代表者たちは別のイベントに向かった。アジェンダは学術的な質問に重点を置いたものに変わった。研究者の参加も多かったからである。本報告書の第2章には、終日開催されたイベントの詳細な報告者ノートが掲載されている。本報告書の第2章には、終日のイベントの詳細な報告者のメモが掲載されているが、主要な要点は以下の通りである。

アフリカならではのユースケースを探る良い機会になったようですね。特に大陸で地続き、かつ旧来の民族や文化が欧米の都合などで分断された歴史があったり、その後も紛争などによる難民や飢饉の発生など、デジタル文脈でできることは多いんだと想像できます。


次にKey takewaysとして以下が挙げられています。

Global Use Cases have a Local Context

While the representatives from the African continent recognized and embraced the consolidated set of use cases (compiled with publicly available inputs from the W3C, EU Digital Identity Wallet, EU/US bilateral analysis, and other workshops), there was a great deal of discussion about how those use cases applied and could be experienced differently in local communities.

For example, a use case called “cross-border trade” emerged and related specifically to individuals who lived near a border and crossed it regularly to conduct trade.

グローバルなユースケースにはローカルな文脈がある

アフリカ大陸の代表者は、統合されたユースケース(W3C、EU デジタル ID ウォレット、 EU/US 二国間分析、およびその他のワークショップから公開されたインプットを使用して編集され た)を認識し、受け入れたが、これらのユースケースが地域コミュニティでどのように適用され、 異なる形で経験され得るかについて多くの議論が行われた。

たとえば、「国境を越えた貿易」と呼ばれるユースケースが浮上し、これは特に、国境付近に住 み、貿易を行うために定期的に国境を越えている個人に関連するものであった。 

この辺りは島国である日本ではあまり想像しにくいユースケースですが、国境と文化圏・経済圏が必ずしも一致しない環境においては重要なケースとなるはずです。

Governance and Trust Frameworks

Even though the concept of a “Trust Framework” does not necessarily translate directly to the National ID systems found in Africa, different elements of Trust Frameworks are found in local legislation, regulations, and other protections built into the systems. Additionally, these ID systems may require less in the way of Identity Assurance policy components (a major pillar of Trust Frameworks) because of the presence of a National ID. This could simplify translation of assurance across borders as long as that National ID is accepted, and the person can be authenticated. Further analysis will be required to map African ecosystems into the existing analysis conducted by the Open Identity Exchange.

ガバナンスとトラスト・フレームワーク

「トラスト・フレームワーク」の概念が必ずしもアフリカで見られる国民 ID 制度にそのまま当てはまらないとしても、トラスト・フレームワークのさまざまな要素は、現地の法律、規制、およびシステムに組み込まれたその他の保護の中に見られる。さらに、これらの ID システムでは、国民 ID が存在するため、(トラスト・フレームワークの主要な柱である) アイデンティティ保証政策コンポーネントの必要性が低くなる可能性がある。これにより、その国民 ID が受け入れられ、個人を認証できる限り、 国境を越えた保証の変換が単純化される可能性がある。アフリカのエコシステムを、Open Identity Exchange が実施した既存の分析にマッピング するには、さらなる分析が必要である。 

強力に統治される集権的な国民IDシステムとトラストフレームワークの両立は確かに難しい問題なのかもしれません。この辺りはもしかするとアフリカだけでなく中国をはじめとする共産圏、もしくは東南アジアの比較的新しく社会システムが構築された国々にも共通する話なのかもしれません。OIXが中心となってトラストフレームワークマッピングの活動を進めているので、他の国との相違点が見えてくるとこの辺りは面白いトピックスになりそうです。

Minimum Requirements

The Minimum Requirements workstream, built on an assumption that there would be no single architecture adopted worldwide, began to explore the options to enable different ecosystems to communicate. This revealed two topics to be reviewed in more depth in SIDI Hub Berlin: a set of architectural paradigms and an analysis of where the translation might take place.

最低限の要件

世界的に採用される単一のアーキテクチャは存在しないという前提に基づいて構築された最小要件ワークストリームは、異なるエコシステム間の通信を可能にするためのオプションの調査を開始しました。これにより、SIDI Hub Berlinでは、2つのトピックについてより詳細な検討を行う必要があることが明らかになりました。その2つのトピックとは、一連のアーキテクチャパラダイムと、翻訳がどこで行われるかについての分析です。

概要からは何を言っているのか分かりにくいですが、国や経済圏によってアーキテクチャのデザインは異なるので、システム間を接続するシステム(プロキシなど)による翻訳が必要になる、という議論が継続して進められています。この辺はベルリンでも話題になっていたのでそちらのまとめでもう少し詳細に。

Academia

The attendees expressed significant appetite for research about interoperability use cases, economic benefits, risks, security, and more. As a result of these conversations, the SIDI Hub community is exploring opportunities to develop a shared research agenda and collaborate with researchers and institutions to bridge these gaps.

学術界

出席者は、相互運用性のユースケース、経済的利益、リスク、セキュリティなどに関する研究に大きな関心を示しました。これらの会話の結果、SIDI Hubコミュニティは、共通の研究課題を策定し、研究者や研究機関と協力してこれらのギャップを埋める機会を模索しています。

SIDI Hubコミュニティの特徴として学術界からも多くの人々が参加してることが挙げられます。相互運用性を考える上ではどうしても現実的な課題解決にフォーカスしがちですが、真にグローバルで相互運用性があり持続可能なシステムを作るにはアカデミックなアプローチによる研究〜開発が必要となると思います。


とりあえずパート1はここまでで、この後は各セッションの詳細が書かれているので次回以降で見てみようと思います。