2024年6月3日月曜日

政策提言「デジタル・ニッポン2024」を見ていく(4)

こんにちは、富士榮です。

少し間が空きましたが前回に引き続き信頼に関してみていきましょう。

前回はプロセスに対する信頼の話でしたが、今回はガバナンスの話です。

要するにいくらプロセスがしっかりと設計されていても運営されていなかったら意味がありません。その意味でガバナンスがどこまでしっかり効いているのかも信頼を構成する上で非常に重要な要素と言えます。

こちら、一応おさらいで全体像を載せています。


早速みていきましょう。

8.2. ガバナンスに対する信頼

ガバナンスに関しては2つのサブ項目が書かれています。

  • アジャイル・ガバナンス
  • 組織ガバナンス
前者は従来に比べてステークホルダーの複雑化しがちな環境下で素早い状況の変化に応じた柔軟なガバナンスが必要になることを謳っています。


(1)アジャイル・ガバナンス

複数の個人や多様なコミュニティから成るマルチステークホルダーが、元来、不安定である社会システムに対して、その目標設定、構築、運用、評価といった一連の戦略的プロセスを、社会それ⾃体の変化に対して臨機応変に対応するという意味でアジャイルに展開していく必要がある。ここでは、連携基盤の結節点には、トラストアンカーと呼ばれる複数の関係者からの信頼を確保するための仕組みが置かれるとされていることが重要であると指摘しておきたい。システムに対する信頼は、新たな価値を生み出す各々のプロセスの実践の中で、それぞれのステークホルダーに醸成される。さらにその信頼が、面的・空間的に形成されるものであることに着目して、社会を円滑に機能・革新させるための信頼の連鎖を作ることが求められる。この点からも、本稿で論じてきたプロセス思考のデータ戦略はアジャイル・ガバナンスを内包する新たな価値を創造するシステムである。

ここでのトラストアンカーという言葉はどういう意味で使われているのかは確認しておきたいところですが、おそらくコミュニティ間での信頼を構築するためにはコミュニティ単位で信頼の起点となる確固たるものが必要である、ということが言いたいのではないかと思います。ここは難しいところで、コミュニティにはルールがガッツリと定められており、ちゃんと制御されている組織と、ゆるく集まったコミュニティのグラデーションがあると思うので、なんでも噛んでもトラストアンカーが必須になるとそれはそれでスケーラビリティがなくなってしまいます。この辺りの落とし所をうまく作っていくこともこれからは求められると思います。

政府の政策プロセスにおいても、マルチステークホルダーとの信頼関係によるアジャイル⼿法が意識されるべきである。デジタル庁では、国と地方の間の対話を重視し、行政のDX に向けて乗り出しつつある。これは、行政サービス分野だけではなく、規制分野であっても同様である。規制を課す者と規制が課される者という二元論では規制が課される者がプロセスから排除されてしまう。社会を円滑に機能させるために必要なガバナンスをプロセス指向で追い求める姿勢が、政府に求められていることを忘れるべきではない。 
とりわけデータ戦略では、アジャイル・ガバナンスが特別な意味を持つ。データは生き物であり、そのライフサイクルは多くの異なるステークホルダーの⼿によって担われているからである。データをどのように取得し、メンテナンスし、利活用していくのか。この一連の⼿続が多数者間で信頼性を維持しながら進行することで、出⾃の異なるデータが組み合わされ、新たな価値を生み出していく。DFFT は、まさにこの作業を国際社会という舞台で展開するものと言える。政府は、データ連携のニーズを国内と国外の双方において丁寧に掘り起こし、マルチステークホルダー間の信頼の醸成によってルール形成や個別のデータ連携基盤の構築に臨むべきである。
ガバナンスを考える時、ステークホルダーを明確化することの重要性は言うまでもなく、特にDFFTの考えに則ってデータ流通を考えると、国際社会における複数のステークホルダーが関連する中でのガバナンスをどのように効かせていくか、は非常に大きな課題だと言えます。今、あちこちで論争になっているクレデンシャルフォーマットやプロトコルの相互運用性の問題をはじめとするテクニカルな側面のみならず、SIDI Hubでも取り組んでいるトラストフレームワークマッピングなどが重要な理由がこの一文に集約されていると思います。

(2)組織ガバナンスに対する信頼
プロセスが信頼されるためには、プロセスを担う組織のガバナンスが信頼されることが必要である。デジタル庁は、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を組織目標として掲げているが、組織メンバー各⾃に、このような行動理念を浸透させることは目的の達成に向けた大きな力となる。web3 技術によって、⾃律分散型マネジメント(Decentralized Autonomous Organization(DAO))という MVV をメンバーが共有するフラットな組織を志向した新たな組織形態が登場し、web3PT の尽力もあって合同会社型 DAO 等の実現等、制度面でも一定の成果が見られたほか、同 PT において一層の活用に向けた具体的な議論がなされた。Society5.0 においてイノベーションを起こす起爆剤となるほか、組織ガバナンスに対する信頼をどのように獲得するか、議論の端緒となることが期待される
最後の一文に集約されている気がします。MVVを共有する自立分散型の組織形態としてDAOが挙げられていますが、これが必ずしもweb3(というかブロックチェーン)と関連するとは全く思いませんが、少なくともマルチステークホルダーにおける組織ガバナンスという意味では一定の人々にとって耳障りが良いものに聞こえるんだとは思います。でも簡単に言うと、複数のステークホルダーで構成される組織における意思決定を多数決を含むコンセンサスアルゴリズムに依拠してやりましょう、という話以上には聞こえない部分もあり、あんまり目新しさもないのでは?とも思えますので、あんまりDAO、DAOとありがたがって思考停止するよりも実効的なガバナンスにするための要素(プロトコルやフォーマットの相互運用性を推し進めるための取り組みなど)をしっかりと見据えて活動した方がいいんじゃないかな〜、と思ってしまいます。

次回はこれまでのことを踏まえての提言を見ていきたいと思います。

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