2024年9月3日火曜日

SIDI Hub - ケープタウンレポートを読む(2)

こんにちは、富士榮です。

いよいよ来週に迫ったSIDI HubワシントンD.C.会合および来月の東京会合に向けて体(頭)を温めていきたいと思います。



前回は概要とまとめを見てきました。

https://idmlab.eidentity.jp/2024/09/sidi-hub.html


今回は各セッションを見てみたいと思います。

SIDI Summit Introduction - 報告者:Elizabeth Garber

まずはElizabethから、SIAのStephanieが担当した最初のセッションに関して報告されています。

SIDI is delighted to be at ID4Africa because the concept was born at an ID4Africa discussion about the development of national identity schemes with vastly different architectures – centralized, decentralized – and different models of governance. The SIDI organizers sought to promote discussions of interoperability between those systems to ensure that no nations are left behind as interoperability is established across others.

SIDI は ID4Africa に参加できることを喜ばしく思っている。というのも、このコンセプトは、ID4Africa のディスカッションで、中央集権型、地方分権型など、アーキテクチャが大きく異なり、統治モデルも異なる国家 ID スキームの開発について議論する中で生まれたからである。SIDI の主催者は、相互運用性が他国間で確立される中で、取り残される国がないようにするため、これらのシステム間の相互運用性の議論を促進しようとした。

ケープタウン開催ということもありID4Africaとの協業について触れられています。前回も触れましたが、アフリカという地域特性、統治モデル、国民IDのスキームの中でどのように相互運用性を実現するのかは非常に重要なことだと思われます。そしてこのテーマはUNDP(国連開発プログラム)の関心ごとの一つでもありますし、日本政府(外務省)からUNDPへのファンドが拠出されている分野でもあります。この辺りは日本からもっと支援ができると良いと思います。

また、同時にIntroductionセッションということもあり、SIDI Hubの戦略について紹介されています。

SIDI Hubの目的・何をして何をしないか、の紹介。


他にも5つのメインのワークストリームである、チャンピオンユースケースの探索、トラストフレームワークのマッピング、相互運用性のための最低限の要求事項、成功メトリクスの設定、ガバナンスについて紹介され、その中でもケープタウン会合のアジェンダでは以下の4つの点について重点が置かれているということについても紹介されています。

  1. Identifying Champion Use Cases
  2. Preliminary Trust Framework Analysis of African models
  3. Minimum Technical Requirements for Interoperability
  4. Governance Approach + Metrics of Success (Two workstreams operating as one for now)

このセッションの最後でStephanieはSIDI HubのコンセプトについてSIDI Hubの戦略の中から以下のように締め括っています。
The concept is that we need a blueprint for how we build digital identity ecosystems within and across jurisdictions that will produce interoperable digital identity credentials by default. Achieving those outcomes will require measurement and metrics, policies, interoperable open standards, open source code (for many jurisdictions) and scientific analysis (e.g. liveness and presentation attack detection).

 このコンセプトは、デフォルトで相互運用可能なデジタル ID クレデンシャルを生成する、 管轄内および管轄をまたがるデジタル ID エコシステムを構築する方法の青写真が必要であるとい うものである。このような成果を達成するには、測定および測定基準、政策、相互運用可能なオ ープン・スタンダード、オープン・ソース・コード(多くの司法管轄権向け)、および科学的分析 (例えば、生存性およびプレゼンテーション攻撃の検出)が必要である。


Use Case Session Part 1 - 報告者:Mark Haine

セッションの冒頭で語られた以下の宣言はさすが大陸文化って感じです。
"People need to move" was a clear opening statement. This is part of their nature. Often, this movement is across a border – a sentiment that resonated across representatives from the African continent, where many communities live and trade across borders. When life’s basic functions exist cross-border, people need ways to identify one another.

「人は動かなければならない」。これは彼らの性質の一部なのだ。多くのコミュニティが国境を越えて生活し、貿易を行っているアフリカ大陸の代表者たちは、この思いに共鳴した。生活の基本的な機能が国境を越えて存在する場合、人々は互いを識別する方法を必要とする

前回のポストにも書きましたが国境とコミュニティの境目が異なる(オーバーラップする)のは地続きの大陸の特徴ですね。そして、その環境下でお互いを識別するための方法は非常に大切です。

The room mentioned ICAO and the passport standard, but the room agreed that there are many other use cases than travel across borders. In turn, identity solutions need to fit those use cases and there are many variations and different issues to consider. By looking at this we might find a working framework.

会場ではICAOとパスポート標準について言及されたが、国境を越えた旅行以外にも多くのユースケースがあることに同意した。そのため、ID ソリューションはそれらのユースケースに適合する必要があり、考慮すべき多くのバリエーションやさまざまな問題がある。これを検討することで、作業フレームワークが見つかるかもしれない。

 ちょっと興味深いですね。国境を超えた旅行以外でパスポートが出てくることがあるんですね。

Participants wanted to learn from the work of EIDAS but not assume it was a better solution than one emerging from African implementation: “We see the work on EIDAS 2 - but there was EIDAS 1 - what went wrong with that? We want to hear about that and learn from it both what went well and what did not go well.”

参加者は、EIDASの作業から学びたいが、それがアフリカでの実施から生まれたものよりも優れた解決策であると決めつけないことを望んでいた: 「私たちはEIDAS 2の作業を見ているが、EIDAS 1があった。私たちはEIDAS 2の作業を見ますが、EIDAS 1があり、あれは何が問題だったのでしょうか? 

 このアプローチは日本も見習わないといけませんね。EUがeIDAS2.0で先行しているから単純に自分たちよりも優れいているはずだ、という短絡が起きないようにしないといけません。そもそも2.0という段階で1.0があったわけで、EUはEUでTry and Errorで見直しを重ねてきたはずなので、そのプロセスの方を見習うべきでしょう。


Campion Use Cases

このワークストリームではチャンピオンユースケースの特定とフレームワークを使って優先順位づけを行うことを目的としています。

 こんな感じで優先順位づけが行われてきています。
  • パリ会合のテーマを取り上げ、具体的なユーザーストーリーを書く
  • W3C credentials ワーキンググループで特定されたユースケースを追加
  • EU ウォレットのユースケースで特定されたユースケースを追加
  • EU + US TTP の二国間分析で特定されたユースケースを追加
ケープタウン会合でのゴールは上記に追加で会合参加者から追加のユースケースを見出すことにあります。
今回のケープタウンでは「Cross-border trade(国境を超えた貿易)」が追加されました。このユースケースはアフリカ大陸内の国境近くのコミュニティに属して国境を超えた商取引を行なっている個人に特に深く関連しています。こういうユースケースは日本やアメリカではあまり出てこないユースケースだと思うのでこういう形でグローバルツアーをやるのは非常に意義深いことですね。

そして、優先順位づけを行うための条件としては以下が挙げられています。
- Who is the use case about?
- What is the cross border interoperability challenge/driver?
- What is the scale of impact, what is the economic analysis of he use case?
- What is the impact on well-being. What is the pain that can be solved, the human benefit that is material?
- We need to identify data inputs and outputs
- Does SIDI Hub have adequate expertise to address the use case effectively?
- Are there balanced incentives for all participants in the ecosystem?
- Is the use case polarizing in a way that we should deprioritize it, or prioritize it?
- Is the use case global or regional?
- Are there suitable mechanisms to establish trust amongst the ecosystem participants
- ユースケースは誰のためのものか?
- 国境を越えた相互運用性の課題/推進要因は何か?
- インパクトの規模、ユースケースの経済分析は?
- 幸福への影響は何か。解決できる痛みは何か、物質的な人的利益は何か。
- データのインプットとアウトプットを特定する必要がある
- SIDIハブはユースケースに効果的に対応するための十分な専門知識を持っているか?
- エコシステム内のすべての参加者にバランスの取れたインセンティブがあるか?
- ユースケースは、私たちが優先順位を下げるべきか、優先順位をつけるべきかの両極端なものか?
- ユースケースはグローバルなものか、地域的なものか?
- エコシステム参加者間の信頼を確立するための適切なメカニズムはあるか?
また、ケープタウン会合では上記に追加で以下のクライテリアも追加されました。
- What are the benefits of focusing on this, from a government perspective

- 政府から見て、この点に焦点を当てることのメリットは何か? 

興味深いですね。文化圏やコミュニティに後付けで国境を作った国々において近代国家と文化圏の折り合いの付け方についてどうなっていくのかは非常に難しくもあり深いテーマだと思います。

その後、このセッションではユースケースの一覧を作り取り組みの意義について投票を行っています。(これはパリでもベルリンでも行われたSIDI Hubのやり方ですね)

こちらがユースケースのリストと投票結果です。(投票数が多いものが来場者が有用と思ったものです)


この結果として国境を超えた貿易が取り上げられた、ということですね。ただ、他にも銀行口座の解説や旅行は多くの得票数でした。

なお、実際の会合の場では、小さなグループに分かれて各ユースケースについて深掘りをしていく、ということが行われます。(これはベルリンでも行われました)

そしてそれぞれの議論の内容を発表して全体で追加の議論を行います。

一例はこちらです。(全部は転載できないので、詳しくはレポートを見てください)


なお、当日は難民のユースケースについて追加で深掘り議論が行われたようです。レポートにはAdditional Notesとして記載されています。

ICAO have a new technology session scheduled in Copenhagen in September. Refugees are still not really catered for despite positive statements.

The refugee community have specific requirements and the cost of implementation in part due to special requirements is high. In some cases a person might be crossing a border from a

state that has failed for them or failed entirely. In this scenario there will be no records available and no trust anchor. It might be that the origin state is the enemy of some or all of the people.

There is a continuous process that involves the identity of a person and the status of a person but in a refugee scenario there are a sequence of events that include:

1. feed the person

2. provide schooling and healthcare

3. enable them to work

4. Protect their human rights

5. Resettlement

ICAOは9月にコペンハーゲンで新技術セッションを予定している。積極的な発言にもかかわらず、難民への対応はまだ十分ではない。

難民コミュニティには特別な要求があり、特別な要求のために一部実施コストが高い。場合によっては、その国から国境を越えてくるかもしれない。このシナリオでは、利用可能な記録はなく、トラスト・アンカーもない。出身国が一部またはすべての人々にとって敵である可能性もある

人の身元と身分に関わる継続的なプロセスがあるが、難民のシナリオでは以下のような一連のイベントがある:

1. その人を養う

2. 学校教育と医療を提供する

3. 彼らが働けるようにする

4. 人権の保護

5. 再定住 

昨日のID Dayのポストにも書きましたが、国民IDシステムから外れてしまった人たちをどうやって扱うのかは非常に難しい話である一方でデジタル技術にフォーカスした非営利団体の活躍する分野なんだと思います。

最後にユースケースのワークストリームの次のステップについてまとめられて本セッションは終了しています。

There were several conversations about further steps in refining use cases:

- Separating into the 'build' phase and the 'use' phase.

- How to integrate

- Trust framework interoperability

- Understand all use cases will take time! Time to persuade and decide, time to implement and time for adoption by citizens

- We might also group use cases into themes if we can.

- Understand relevant regional groups that collaborate with a common and specific goal but it still takes time

- We should add consideration of sustainability over time.

- How do we mitigate risk relating to unstable governments.

- There is also the discussion of the status of a person over time to be managed

- Once we have the use cases they will be used to help illuminate the policy and technical work.

ユースケースを洗練させるためのさらなるステップについて、いくつかの会話が交わされた:

- 構築」フェーズと「使用」フェーズに分ける

- どのように統合するか

- 信頼フレームワークの相互運用性

- すべてのユースケースを理解するには時間がかかる!説得し決定する時間、実施する時間、市民が採用する時間

- 可能であれば、ユースケースをテーマにグループ分けすることも考えられる

- 共通の具体的な目標を持って協力する関連する地域グループを理解する

- 長期的な持続可能性を考慮すべきである

- 不安定な政府に関するリスクをどのように軽減するか

- また、時間経過に伴う個人のステータスを管理する議論もある
- ユースケースが出来上がれば、ポリシーや技術的の作業に役立てることができる。

なかなか固まるまでには時間がかかりますし、キリがない議論、よく言えば継続的に議論し推進することで世界を良くすることができる無限の可能性がある話ですね。


ということで今回はここまでです。

次回はトラストフレームワークについての議論についてみていこうと思います。





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